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あんな王都で暮らすよりも、こういった田舎暮らしの方があっていたのかもしれない、とロッサナはしみじみと思った。
「ロッサナ」
名前を呼ばれたので振り返ってみると、そこにはエドアルドの姿があった。
「はい、なんでしょう。エドアルドさん」
「エドでいい」
「はい?」
「だから、呼び名だ。長いからエドでいいと言っている」
上から目線の男だな、とロッサナは思った。だが自分は新参者だし、領主でもない。そこは我慢しよう。
「わかりました、エドさん。それで、どのようなご用件でしょうか」
「いや、その悪かったな」
彼の瑠璃色の瞳が、はかなく揺れていた。
「何が。ですか?」
「その、王太子との婚約破棄のことだ」
「お気になさらないでください。事実ですから」
そこでロッサナは上品に微笑んだ。
「それに、あれがなかったら今でもあの閉じ込められた学校の中です」
ロッサナは王太子より二つ年下だった。本来であれば、まだ学業に励む身。だけど、父親のトスカーニ侯爵に捨てられたから、もうあの学校に通うこともないだろう。
「すべては縁なのです」
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