1話 無能な男

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1話 無能な男

「……チッ、もう行こうぜ」 「全く反応しないからつまらん」  ぺっと唾を吐き捨てて、その場を男二人が後にする。  重たい体を起こし、無駄にデカいフェンスを背にし座る。  空は曇り一つないいい天気。  そよ風が吹いて実に気持ちいい。多分今、寝ようとは思えば寝れる。  ……床に広がっている血さえなければ。 「折角屋上に来たってのに汚していきやがって」  これじゃ寝れないだろうが! 捨て台詞も中々酷いもんだったな。  さっきのことを少し思い出す。  そしてすぐに辞める、すると鈍く重たい音を鳴らせながら扉が開き、一人の少女が入って来た。  純白の白を基調とした制服に赤のネクタイを着けている。  ただ制服を着ているだけなのに絵になる。  そして何より、制服の純白と比較するように派手な髪色。 「やっぱりここにいたんだね」 「よ、なんか用か?」  少女はこちらに歩み寄り、目の前に立ち見下ろしてくる。  声を掛けられたから適当な返しをした。 「相変わらず酷い有様ね」 「ほんま酷いような、サボりの場所を汚しやがって」 「そうね、しかもあんたの血で、反撃しようとは思わないの?」 「思わないね、めんどくさいから、どうせ反撃しても彼奴らは攻撃してくる」  少女――さとりは困ったような笑みを浮かべ、隣へと座ってきた。  こいつ何しに来たんだ? からかいにでもきたんか。  紙を見せてきた。受け取り内容を見る。 「そんなものを見せにくるな」 「どうせまだ決めてなかったんでしょう?」  さとりの言葉に頷く、見せて来た紙……それには進路希望と書いてあった。  三つの空欄があり、希望順に書けってことだ。  「さとりは決まっているのか?」 「まぁ決まっているかなって……君まさか一緒にする気?」 「バレたか」 「やめときな、痛い目みるかもよ?」  考えてみればそうだ、もしさとりが女子校を選んだ時点で無理だ。  そしたら適当な県立か私立を選んで入学をするか。  じゃあ決まり! と思い目を瞑ろうとした瞬間。  横からパコーンと叩かれた、一体何故だ? 「適当に選ぼうとすんな」 「何故分かった!? 名前の通り心でも読んだか!」 「な訳ないでしょ、普通に君が考えそうなことを想像すれば分かるよ。少なくとも短い付き合いじゃないし」  はいはいそうですね。俺と君は短い付き合いではない。  と言っても長い付き合いでもない、絶妙なバランスで取れた関係値。  痛い目みるか、さとりが行きそうな学校を一つだけ思い浮かぶ。  けど、以前絶対に行かないと言ってた。気が変わって行くという可能性も捨てきれない。 「さとりはやっぱりあそこに行くのか?」 「クロード学園に? そこも視野には入れているかな?」 「声でも掛かったか?」 「まぁね。推薦の一部だって」  なんだ乗り気じゃないのか、これが当たり前の反応。  あそこ――クロード学園に行きたい物好きじゃない限り、声が掛かったり、推薦でも嬉しくない。  だけど、さとりの実力ならば十分通じると思う。 「もう少し様子見かな、第三希望くらいには書いたけど」 「お前ならばどこ行っても通用しそうだがな」 「我妻君は来ないの?」 「喧嘩売っている? 俺なんかが行っても通用しない。落ちこぼれとして生活するのも嫌だし」  ◇  さとりと屋上で分かれてから今度は校舎に呼び出され、ボコされる。  飽きたら解放される。と思っていた。  今回はどうやら少し違う、男たちはニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべ、見下す。  なんだ? 今度はなんだよと思った時、三人組のリーダー格の男は口を開く。 「俺はなクロード学園に進学しようと思っているんだよ。だからお前はその為の実験台だ!」  なるほどねこいつ()()()()()か。  ここ最近よく耳にする単語、人間の上位互換とも云える進化した人間。  サラブレットや遺伝子操作をされた人間はここの部類に入るだろう。  目の前のこいつは後者。  遺伝子を操作され作り出された上位互換ねー。こいつがそうならばこの国はもうお終いだ。  ボコっと殴られる、男の顔は実に不快そうだ。  もしかしたら顔に出ていたかもしれない。 「本当に腹立つな玩具だな! でも今日は実験だ」  刹那、男の右手から炎が生まれてた、おっとまさかその炎を使って人を痛ぶるのか?  だとしたらちっと悪趣味。  炎が眼前に近づいても焦りはない、意外にも冷静でいる。 「馬鹿じゃないの! 少しくらい抵抗しな」  見慣れた少女が後先考えずにこっちへ突っ込んでくる。  すぐさまに男の取り巻きに捕まってしまった。  一体こいつは何をしにきたんだ? 男も少し困惑した表情を浮かべている。 「で、お前は何をしにきたの?」 「いい加減そいつをいじめるのやめてくれない?」 「じゃあなんだ? お前が俺らの相手をしてくれるのか? 美少女が相手とかいいな」  男はさとりに迫り、炎を出している右手で触れようとした。  逃げられないと覚悟を決めたのか目を瞑っていた。  ……破裂音に近い音が木霊する。それとほぼ同時にバタッと男は倒れる。  髪を雑に掻き上げ、さとりに近寄る。 「余計な前すんな……めんどくさいことは嫌いなんだよ」 「え、なんで……」  バタバタと音を立てながら倒れていく。
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