18話 覇王の話

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18話 覇王の話

「それはお互い様でしょ?」  「この学園を潰す」  二度目、いや本日最大の衝撃を喰らった。  学園を潰す、言葉にするのは簡単だが、行動なんて到底出来ない。  だが、先生ならばやりかねない。  潰すために学園で教師をしているのか? 内部調査?  「アルド――いい加減名前くらい教えろ」  「あれ言ってなかったでしたけ?」  惚けてみる、先生は苦笑をしながら「聞いてねぇよ」と一言。  名簿を見れば早い話だろうに、そういえば先生が名簿を持っている姿を見たことがない。  受け取らずに、聞いた名前を覚えてるだけかも。 「……白桜(はくほ)」 「そうか白桜か、いい名前じゃないか」 「この名前嫌いなんすけどね、アルド呼ばれるのも嫌すけど」  今我儘を言った自覚はある、普通に苗字を教えれば早い話。  ただ偶然に俺と先生の苗字は同じ、我妻と呼ばれるのは何か癪。   「どうして嫌なんだ?」 「先生は覇王と崇められて嬉しいですか?」 「嬉しくはない」  やっぱりそうか、先生でも嫌なんだ、少し共感が持てた。  他の人間からすれば名誉や、誇らしいとか思うだろ、実際はそんなに良いものではない。  目先の評価や表のことしか知らないから、好き勝手言う。  言われている身も考えたことない奴が大半だろう。  いい意味で色んな人間を見てこれた、だからこそアルドを俺は嫌いだ。 「先生って結婚とかしているんですか?」 「どうした藪から棒に? まぁいい、している妻と子供がいる」 「一緒に住んではいないんですか?」  こんなでかい屋敷みたいな所ならば、一緒に住んでても可笑しくはない。  話している最中、先生は悲壮感を漂わせていた。  席を立ち上がり、棚に置いてある写真立てを見ていた。  チラッと見えた、三人の人物が写っていた、先生と奥さんに子供だろう。 「住んではない、覇王って云うのは意外と大変なんだ。最強だから、勝てないからそんな理由で家族をよく狙われた。妻には愛想を尽くされ、安全で平和な国に住んでいる」 「この国も他より比較的に安全なんですがね」 「確かにそうだな、だがこの異名はオレにまとわり付く」  ……! 今俺は気付いた、雑用を押し付けられ、物を運んで帰ろうとした時に言われた言葉。  先生は己の境遇を暗示した、同じであり同じじゃない最強の俺を気に掛けて。  もし大切な人を持つ場合、覚悟を強いられる。  異名や最強で居続ける限り、リスクがまとわり付く。    「大事な持つ時は覚悟をしろ、最強で居続けるだけでリスクへと変わる」  「安心して下さいよ、俺にそんな人はいないし、今後も作らない」  言い切ったら先生は微笑んでいた、まるで子供の戯言に付き合う親のようだった。  子供なのは間違いないけど、そんなに可笑しいこと言ったか? 「作ろうと思って出来るものじゃない。気付いた頃には側にいる」  気付いた頃にはいる、そんなものなのか。  いずれ出来るのであれば、その可能性を少しでも減らすべきだろう。  きっと無能を演じることはきつい。  だったら極力人と関わらず、人間関係を良好にしなければいい。  極端かもしれない、だけど一番いい選択。 「話が逸れたな、学園を潰す、それがオレの目的だ」 「どうやってするんですか? いくら先生と言っても一筋縄でいかないですよね?」 「無理だろうな、そこでお前に頼みがある。オレと手を組まないか」  なるほど、だからこそ俺をここに呼んだのか。  学園の闇は俺に興味を持たせるための餌に過ぎなかった。  一杯食わされた、策士、それでこそ覇王。  ここまで来て断るのは極めて難しい。  けれど、協力、手を組むメリットも存在しない。デメリットの方が大きい。  組むのは得策とは言えない。圧倒的なメリットがない限り、組むとは言い切れない。  次は一体どう出てくる?  「お前は損得を考えるタイプだろ、オレも一緒だ。だからこそ一つ提示してやる」  来た! この提示の内容次第では断る、いくら力技で来られようがOKを出さない。 「どんなことが起きても味方でいてやる、お前を守ってやる」  思わぬ言葉、提案に思わず呆然としてしまう。  どんな提案をするかと思ったら超絶シンプル、だけど絶対的な味方。  これほどに最高な提案はそうそうない、俺の答えはもう決まったのも同然。 「その提案乗りましょう」  席を立ち上がり、先生の下へ近づき、手を差し出す。 「契約成立だな」  と、一言を言われてから硬い握手をした。多分今完全にパンドラの箱を開いた。  きっとこれからの学園生活は大変になるだろう。  平和や楽しく過ごせない可能性だってある、敢えて困難な道を選び進んでみる。  失敗が許されない挑戦だろう。 「正直これじゃあ足りない、もう少し高い要求をしてくると思ったぞ?」 「一体俺を何だと思っているんすか?」  高い要求を仮にしたとしてもこの人ならば、叶えることはできるだろ。  その力を持っているから、生憎物欲は持ち合わせてない。  だからこそ、この提案以上に素晴らしいものはない、それにこの人の前ならば素を出しても大丈夫だろう。 「そろそろ本題に入りましょうか、さっきから話が別の方向に逸れています」 「悪いな、白桜と喋っているのが楽しくてな」    
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