22話 異能者

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22話 異能者

何かしらのトリックがありそうだな。  体を起こし、倉庫の方を見ると、天宮がアタッシュケースを漁ってる。  バーカ、漁っても意味がないぞ? 何故ならばそこには……。 「書類がない!」  そう、アタッシュケースの中にそんな書類を入れてない。  まず前提として物を入れてない、取られる可能性を想定し、忍者刀は腰の後ろに帯刀している。  タブレット型の薬も手元にある。  攻撃をされたから反撃に移ってもいい、逆に先生へ助けを求めて逃走する。  後者を選ぶ場合、まだこっちへ気づいてない内にした方がいい。 「騙したな! アルド!」 「そんなに叫ぶなよ、天宮……クロック」  ゆっくりと歩き、クロックに近づく。  クロックは音を置き去るレベルの速さで、距離を潰し、攻撃してくる。  速い、一撃、一撃が急所を狙ってる。暗殺者にとって理にかなった攻撃。  紙一重で躱しつつ、カウンターを出す。  俺の攻撃は空を切る、気づいた頃には離れている。 「どうした? 暗殺者にしては攻撃が単調だな」 「貴方こそ、その程度の速さで私を捉え切れると思い?」  言ってくるね! 地面を踏み締め、飛び出そうと思った瞬間。  何かが飛んでくる、受けることなく躱す。  飛んできたものは地面に落ちる。 「なっ!?」  俺は地面に落ちた物を見て少し驚愕する。  落ちた物体に驚いてる訳じゃない、落ちた跡に驚きを隠せない。  地面が深く抉られていた。奥深くにはビー玉程度の鉄の塊。  こんなもので地面がここまで抉れるか、人体に当たったら一溜まりもない。 「よそ見してていいのかな!」  風切り音と共に飛んでくる。  くそっ!! 俺でもこんなの喰らったら死ぬ。  サイドステップで躱すも、次へ次へと飛ぶ。  中、遠距離ではあっちに分がある、だったら近接戦に持ち込む。  鉄の塊を掻い潜りながら距離を詰め、拳を振る。 「女の子相手に暴力って酷いですね」 「どの口が抜かしてやがる、お前のそれ指弾だろ?」 「よくお分かりで」  銀閃をギリギリで躱し、バックステップを取る。  近接も抜かりなしか、近中遠、どれも脅威な一撃。ほぼ完璧なコンビネーション。  近接になればナイフ、中遠距離では指弾。  本当に厄介だ、しかもクロックが使う指弾は普通のとは違う。  普通指弾は礫を飛ばす、だが彼奴が飛ばすのは鉄塊。   「そんな場所で立ち止まっていいのかな!」  どんどんと鉄塊が襲う、掻い潜りながら背後にある木へ、身を隠す。  その間も飛び、木が抉れていくのが分かる。  長居はできない、一体どのくらいの鉄塊を持っている?  圧倒的に押され気味、このままではジリ貧。  大人しく先生を呼びに行った方が吉なのだろう。 「先生の呼びに行ってる間どうなる?」    もし俺の関係者を殺しに行くのでは? 真っ先に考えられるのはさとり。  暗殺者のクロックならば簡単に殺せれる。 「君と楽しく過ごしたいか、ここで立ち止まっている訳にはいかんな」  この学園に入学する前、さとりに言われた言葉。  あの時、深くは考えなかった、今も特段考えている訳じゃない。  でも、この学園へ導いた彼奴の言葉、それを勝手に守ってもいいだろ。  ふぅーと息を吐き、飛び出す、相変わらず指弾は飛んでくる。  当たったら一溜まりもない、もし当たった場合の話だがな! 「な、なんで当たらない!」  そんなものが俺に当たる訳がない、考えなしに打ちこまれば慣れる。  優勢に立ってると思った矢先、元に戻ってしまい焦るだろ?  だから、そんな時ほど懐に入りやすい。  ナイフを出させない、クロックの右手をとり小手返し。  地面に倒れ、ナイフも落ちる。 「くっ!」  流石は一流の暗殺者、瞬時にナイフを拾って攻撃をしようとする。  けどな、ナイフを拾わせる優しさなんかない。  ナイフを蹴り飛ばす。 「これで形成逆転だな、俺相手に同じ技を出し過ぎだ」  殺しはしない、少しの間気絶をして貰い、先生の下へ連れて行くとしよう。  足を大きく上げ、踵落としの構えを取り……落とす。  ドーンと激しい音が耳に残る。 「は? な、なんでお前そこに?」    俺の足の下に本来はいる筈の奴がいず、背後に薄ら笑みを浮かべたクロック。 「あー怖っわ、そんなの喰らったら死ぬよ私?」  一体何が起きてる? どうして奴が背後を取っている?  仮に躱したとしても、背後に行くまでには秒は掛かる。それに動こうしたら俺が気付かない筈もない。    「そんな怖い顔しないでよ」  不敵な笑みを浮かべ、ナイフをくるくると回している。  蹴っ飛ばしたナイフが今も地面に落ちてる、拾った訳ではなさそうだ。    「誇ってもいいんだよ? このクロックに本気を出させたのだから!」  ◇ 「白桜、スパイの中で危険なのはクロックだ」 「クロックって何者すか?」 「年齢、性別、性格、全てが不明な暗殺者だ。分かることは暗殺者としての腕は境地のレベル。気付いた頃には死んでいる。もし出会した時は気をつけろよ」  気付いた頃には死んでいるか、今も気付いた時にいなかった。  暗殺方法と何か関連している可能性が高い。  先生との会話を思い出し、一層警戒をする。  本気、それは未知なる世界。  瞬きをした瞬間、眼前には無数のナイフが合った。  嘘だろ! 少し被弾しながら転けて躱す。  大したダメージはない右肩にナイフ、数本が刺さった程度。  「へー! 凄いね、今の攻撃を避け切ったのは君が初めてだよ」  嬉しそうに笑いやがって! 落ち着け、感情的になるな、こういう時ほど冷静に。  気付いた時、無数のナイフが飛んできた、多分投げナイフだろう。  そこまではいい、問題はいつあんな数を投げただ。  俺が気づかない速さで投げたのか? 「考えても仕方ねぇ」  刺さったナイフを抜き取り構える。するとまた無数のナイフが飛んでくる。  ナイフを叩き落とす、それでも全て防げず掠る。  二回目の攻撃で分かった、スピードで成せる技じゃない。  強いて言うならば()()()()()()()()()()()()()。 「流石の実力だねアルド、つくづく思う、なんでFランクなんかで燻っているの?」  強烈な圧が押し掛かる。  燻っている、クロックが天宮として接してきた時に、言ってきた言葉。 「君の実力ならばB、いやAはいける。どうしてFなんかにいるの?」 「余裕そうだな、俺に興味でもあるのか?」    クロックは笑みを崩さない、どうやら余裕のようだ。  こっちは全然余裕なんかない、何かしらのトリックがある筈。  それを暴かない限り、俺に勝ち目はない。  パチンと音がする。  急に視界が真っ暗へと変貌する。視界が暗くなった。 「アルド楽しかったよ、さようなら」  聞こえるか、聞こえないの間の声量で囁かれた。  次にキーンと音が響く、一歩後ずさる音も聞こえる、地面が少し削られている。  視界は真っ暗、だけど感覚と聴覚が残ってれば戦える。  気配がする方に突きを繰り出す、一回じゃなく無数にだ。  金属音が鳴り響く、攻撃を全て防がれたか、ならばこれはどうだ! 「かはっ!?」  手応えあり、後ろ回し蹴りを繰り出した。  すると、だんだんと視界が元に戻り、腹を抑え、悶え苦しんでいるクロックの姿が露見する。 「お前異能者か」  キッと睨まれる、視界を奪うだけの異能か?  一見弱そうに見えるが実際厄介な異能、こんなナイフじゃ厳しいな。  タブレット型の薬を出し飲む。   「……って! 何も起こらねぇじゃないか!! あのくそ教師」 「何を独り言を呟いている」  銀閃が飛ぶ、危ねぇ! 再び視界は真っ暗になり、戻る頃にはクロックがいなかった。  近くに気配を感じなかった、完全に逃げられた。 「くっそ逃げられたか」    周囲を警戒しながら戻るとしよう、アタッシュケースだけ回収しよ。  穴が空いた倉庫の中に入り、回収しようとした時、空からナイフが振り注いだ。  やられた! 完全なる襲撃を喰らった。  上には流石にいない、どこからか投げている、貫通するほどの威力。 「違う! もう既に天井を切り刻んでる」    しかもうまい具合にナイフが通りやすくなってる。  完璧にしてやられた、相手がプロだってことを、どこかしら忘れていた。    
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