24話 一時の休息

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24話 一時の休息

 暗殺者でありスパイのクロックとの戦闘から、約一月半が経った。  その間、黒フードに動きはなかった。  一方的に襲撃をされて幕を閉じたに過ぎない。  一度にならず二度もやられた、絶対にしばき倒す。 「……つうかなんでお前がここにいるんだよ!」  目の前で雑用をしているメイドに向かって叫んだ。  不思議そうな表情を浮かべて、一目見て作業を続けてる。 「そんなに怒るな、連れて来たのはお前だろ?」  先生が宥めるように言った一言、正論だったから何も言えなかった。  あれから何度も先生と密談をし、定期的にお邪魔をさせて貰っている。  今回も呼ばれて来てみたら、本来おる筈のない人間がメイドをしていた。  雷で打たれたような衝撃に襲われた。 「別にもう何もしないから安心して、今は覇王の下でメイドをしているだけ」 「クロエの所には戻らなくて大丈夫なのか?」  目の前のメイドは少し、悲しそうな顔をして俯いた。  あれ、もしかして不味いこと聞いてしまった? 横から視線を感じたから見ると、先生がニヤニヤとしていた。  この人、絶対に面白がっているだろ! 「私がお嬢様の所へ戻る資格なんかない、それに死んだ扱いとなっております」 「あっそ、それでどうしてメイドなんかしているんだ?」 「生かして貰い、匿って貰っているので対価を支払っているに過ぎません」    そういう所は律儀、財閥のメイドをやっていただけはあるのか。 「本人を前にして何ですけど、情報は抜けたんですか?」 「抜けてない、まず咲夜自体、機密情報を持たされてなかった」 「使い捨ての駒」 「あの君にデリカシーってものはないの!? 流石にズバズバと言い過ぎなんだけど!」    先生との会話に割って入ってきた、デリカシーは多分持ってない。  天宮に気を遣わずの発言だった、優しく慰めるような関係値ではないし、事実を述べただけだ。 「あの黒フードは何者だ?」 「分からない、今回の潜入のリーダーとしか分からない」 「白桜、お前から見てその黒フードの実力は?」 「はっきりとは分からないですが、強いて言うならば総合的に強い」  パワー、スピードは未知数、されたのは奇襲。  剣戟を釘付けにし、気付かぬ間に手榴弾を落とされた。  戦闘IQが高い、しかも爆風が自分方に来ないように、距離を置かれていた。  戦闘に長けている熟練者、そんな印象。   「Sに近い、Aランクと言った所でしょう」  「超越者(イマジン)と同等の存在か」 「一つ聞いていいですか? アルドはナチュラルじゃないの?」 「ナチュラルだけど?」 「え、でもあの戦い方は能力者……」  天宮は心底驚いたような表情を浮かべていた。  無理もないだろう、途中で動きが別人の如く変わった。  俺自身、何かが起きたのか分かっていなかった。  ただ、調子が良かった、全てのパフォーマンスが整っていた。  これ以外の言葉は当て嵌まらない。 「体の調子はあれからどうだ?」 「普通ですね、別格に良いとか悪いもない、あの時の高揚感はないっす」  動きもいつもと大して変わらない、思考もクリアになることはなく、最適解が浮かび上がることもない。 「そうか」 「無能力者ならばどうして、あの時炎を刀身に纏うことができたの?」 「分かんね。やれそうだったからやった」  鳩が豆鉄砲を受けたような顔をしていた。  実際、俺自身も理解できていない、自然と炎のイメージが思い浮かび、形にしようと思ったらできた。  今俺の体には一体何が起きている? 「白桜、お前は昇格試験どうするつもりだ?」 「いきなり何すか? 出るに決まってる」 「え? 必要なくない? 君昇格しないでしょ?」 「は? それどういう意味だ?」  脳裏には最初の頃に貰った表、Sランクへ昇格の文字が浮かぶ。  いやいやまさかな、そんな駆け足で上がる訳……アルド。   「ここ最近、風の噂で聞くよ、アルドが覇王と肩を並べるって」 「そんなのただの噂に過ぎないだろ!」 「言ってなかったがお前、暫定的にSランクな」  今サラッととんでもない爆弾発言を落とされた。 「どして? Sランク?」 「お前の実力を考慮されれば当たり前の評価だ、後は自分のネームバリューを侮り過ぎだ」  ネームバリューに関しては納得はいく、実力を考慮されたら――明確な実力を示してない。  それなのにどうしてSランクへ昇格となるのだ? 「学園側はスパイを認知し始めた、そして生徒に大々的に公表することになった」 「発表して大丈夫なんですか? 普通に考えればするものじゃない」 「正にその通りだ、普通はしない、しても抑制になるとは限らない。だが今回スパイを撃退したのはオレとお前になっている」 「まさか! それ功績としてランクを昇格?」 「ご名答」  そういうことならば合点がいく、覇王の手助けを借りたとは云え、在校生が撃退した。  いい宣伝にはなる、しかもアルドというネームバリュー付き、FからS。  それは多くの生徒のやる気、向上心を上げるための実績にはちょうどいい。 「完全に利用された」 「ああ、完璧にな、しかも覇王とアルド。この学園の双角を出し、抑制を促してる」  最強をダシにして、抑制と同時に生徒の向上心を底上げを試みる。  教育者としては鏡のような存在、だけどそれ以上に策士。
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