28話 ヴァーミリオンからの脱出

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28話 ヴァーミリオンからの脱出

「それなりに動けているね、この調子ならば早いんじゃないかな」  淡々と言葉を並べられる、息を切らしながらも挑む。  簡単にいなされ、何度も床に背をつく。  シロさんは果敢に攻める。  便乗して攻めてみたが二人まとめて、床に背をついてた。  痛みは感じられなかった。 「はい今日はここまで」    パンパンと乾いた音が響く、訓練の終了の合図。  気付いた頃にはメイドさんはいなくなっており、道場には私たちしかない。  シロさんの息がだんだんと荒くなっている、私も少し呼吸が荒い。  少し深呼吸をして息を整える。  二人掛かりで、顔色を変えることも息を乱すこともできなかった。   「私、先に戻りますね」  シロさんに一言を言って、その場を後にする。  広い屋敷の中を少し、迷いながらも客室と書かれた部屋の中に入る。  一室だけ貸して貰ったけど、結構広い部屋。寮のリビングに匹敵するくらいの広さ。  全体的に淡い色の装飾が施されている。  床は赤いカーペットが魅かれており、中央には大きなダブルベットが一つ。  ベットの手前にあるソファーへ腰を下ろす。  数分経ってからシロさんが入ってきた。 「お疲れ様、異能は掴めそう? 私は全然だめ」  え、無反応! やはり今日もだめか。  実習始まってから何度か接触を、試みたが一度も話せてない。  なんか上手い具合に躱されている――避けられている節がある。 「そんな毎日話かけてきて、何がしたい?」 「うーん距離を縮めたいかな」 「あっそ」  初めて反応してきた。  まぁ吹雪のように冷たい、絶対零度ような軽蔑した目で見られる。  ちょっと心が折れそう。  薄々思っていたがシロさんってクール。  若干我妻君に似ている。    「――貴方、アルドと仲良かったよね? 一体どんな関係?」  どんな関係と言われても友達、クラスメート、同部屋の住人。  出そうと思えたらキリがない。  けれど、私の答えは決まっている、しかし少し疑問にも思った。  他の人からすれば一体、どういう風に見られているのか?  少し興味が合った。 「どんな関係に見える?」    悪戯心を丸出しにした質問。  意外だったのか、シロさんは目を見開いてた。  普段のクールなシロさんから考えられないほどに、驚いた様子。  「……大体は恋人って答えると思う。でも友達以上、恋人未満な感じがする」  「じゃあそれでいいよ、正直自分でも分かっていないし」  第三者から見ればそのくらいの関係値。  逆に云えばそのくらい仲が良いと思われている。  どっちにしろ、友達であることは変わりしない。 「何それ変なの」  クスクスと笑っている、先ほどの冷たさから想像ができないほどに、笑みを溢している。  初日に比べれば、大きな進展かな! 胸を撫で下ろしていると、話し声が聞こえてくる。  はっきりと会話は聞こえてこないが、メイドさんの声。  聞き耳を立てると、ボソッと聞こえた。 『任務は失敗……アルドを抹殺に変更する』  その発言を聞き、心臓がバクバクと鳴り始め、脈が強く打つ。  声を出しそうになった時、背後から口を塞がれる。  シロさんは何も言葉を出さずに、首を横に振っていた。  タッタッと軽快な足音が遠くなるまで待ち、手が口から離れた。 「今のって……」 「メイドだろうね」  今さっき聞こえた発言、もし聞き間違いでなければ大問題。  特に後者に関しては見逃せない。  どうして我妻君を抹殺なんてことになっている? 「今のを聞いてどうする?」  どうする? 考える必要がない、答えはもう決まっている。  阻止する、どんな理由があろうと、抹殺をさせれない。  扉を開け、忍び足でメイドさんの後ろを付ける。  途中で見失ってしまった。どうしようと考えていたら、肩をポンと叩かれる。  振り向くとシロさんだった。 「え? あの何をしてるんですか?」 「面白そうだから付いてく、後上の方に上がったよ」  階段の方を指し、一人勝手に進んでいる。  まぁいいかと思い、階段を上がり奥の部屋へと入る。  中は薄暗く、何が置いてあるか見えない。  自分の感覚に頼って、進むと机にぶつかる。  スマホを照らしてみると、机の上には手帳が置かれており、開いた瞬間。  服を後ろから引っ張られる、体勢が崩れると思った瞬間。  暗闇からメイドさんが現れ、素早いナイフの突きが襲ってくる。  刃先が当たるギリギリで、倒れたことにより一難去った。  やばい! 逃げないと、直感が知らせてくる、逃げろと! ひたすらに逃げろ! 「何か算段ある?」 「とりあえずこの手帳の中身を見たい!」 「それじゃあ一旦、ひたすらに逃げよう!」  私たちは無我夢中で屋敷内に入り、客室へと隠れる。  真っ先に探りを入れらそうな場所、だが敢えて、灯台下暗しをしてみる。  同じ客室にはいるが別々の所で身を潜め、手帳を見る。  ペラペラと読み漁ると色々なことが、書いてあった。  異能について、そしてスパイ。  ......パンドラの箱を開けてみせる。  情報がまだ少し弱いかな、パンドラを開けるためにはもう少し必要。  足音とか気配はしない、出るか。  隠れている場所から出ると、同時にくらいにシロさんも出てきた。  情報をもう少し手に入れたい、だけど巻き込むわけにはいかない。 「それには何が書いてあった?」 「異能について、私たちが持っていい情報じゃない」  歩きながら話し、玄関に向おうとした。 「その通り、だから死になさい!」  背後から声が聞こえ、殺意が向けられている。  多分凶器(ナイフ)を持参しているだろう。  シロさんを突き飛ばす。 「学園に行って! 我妻君を頼って!!」  私たちとの距離を離し、シロさんは狼狽えながらも、屋敷を抜けていた。 「いい友情ごっこだね!」 「友情ごっこって酷いですね。れっきとした友情です」  凶器が迫ってくる、正真正銘の万事休す。  腹を括り、目を瞑った瞬間、再び思考がクリア。  動きがスローモーションに見える。  全身から力が湧いてくる! 動きが遅く見える以前に、次どう行動するか分かる。  脳内にイメージとして流れてくる。 (急に動きが良くなった)  え、今のは何? どこからか声が聞こえる。  誰の声か気付く。目の前の人物だ。  だけど言葉を発してない、それこそ心の声。  だとすれば今私は心を読んでる?  ステップし逃げるけど迫れる。次の行動が分かっても反応しきれない。  身体能力の違いか。やだな、死にたくない。  地面にひれ伏せてくれないかな。  次の瞬間、メイドさんは強く地面にひれ伏せた。  ◇  はぁはぁと息を切らしながら、屋敷からの脱出を成功した。  「......完全に異能を発祥することに成功した」  異能を発祥する時、何かしらの症状が出る可能性は高い。  しばらくの間を身を潜めよう。  シロさんが無事だといいな。  多分君は待ってないかもだけど。 「我妻君ごめんね」
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