29話 師弟誕生

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29話 師弟誕生

言葉の意味を理解す流のに、時間が掛かった。  理解をしたとしても、こいつは何を言ってんだ?  俺がシロを鍛える、そこに対してメリットはない。  友達でも協力関係すらない。ただのクラスメート。 「頼る人間を大きく間違えている」 「何も間違ってない、私は貴方(アルド)に教わりたい」  俺に? 一体何を企んでいる?  話したことすらない、模擬戦で少し相手した程度。  それくらいしか接点はない。 「何故俺なんだ? 単に鍛えて欲しいだけならば、先生を頼れ」  世界最強の男が潔く、鍛えてくれるとは思わないがな。  教えてくれるかは分からないが、俺なんかに教わるよりは充実するだろう。 「……君に教わりたい」  言葉自体は淡々としている。感情を感じ取れないし、読めない。  それでも頑な意志を感じた。  その証拠にシロの瞳が真っ直ぐ俺を捉えている。 「どこまで鍛えて欲しいんだ」 「昇格試験に勝ち残れる程度」    昇格試験に生き残らせるためならば、非常に容易い。  シロの潜在能力はさとりより上、Fランクの中ではトップの人材。  異能に関しては分からないし、潜在能力もどこを含めているかは謎。  だが模擬戦で、果敢に挑んでくる勇気――度胸はある。  近接、中距離を鍛えてやれば化ける。  軽く戦いの基礎を教えて、自主練やらせるか。 「逆にさどこまで強くできるの?」 「最低でAランクの生徒に勝てる程度」 「じゃあ最高は?」 「決まってるだろ、現在Aランクのトップであり、超越者(イマジン)のクロエを倒せるくらいにだ」  シロは放心状態になり、意識が戻ってきたと思ったら今度は目を見開いてた。  そんなに変なこと言ったか? 「え、クロエって強いよね!?」 「お前そんなに感情豊かだったんだな、驚きだよ」  さっきまでの脳面のような無表情とは違い、今は感情豊かな表情へと変わっている。  少しパニックているのか、挙動不審。  無表情のシロが挙動不審という、絵面があまりにも面白いため吹いてしまった。 「何が可笑しいんだよ!」  子供のように拗ねた言い方、笑われたのが恥ずかしかったのか、りんごのように真っ赤になっている。  シロの白い肌が赤くなると目立つ、なんか色気を感じた。  リスのように頬を膨らましている。こいつ面白いな。  無表情のクール女子かと思ってたが、単に感情表現が下手なだけだ。  さとりが戻ってきた時に話のネタにしてやろう。 「悪い顔している、極悪人ような顔だ」 「お前は極悪人を見たことがあるのか?」 「よくテレビで流れるよ、本当にクロエに勝てるまで強くできるの?」 「可能だ、でもお前には不要だろ? 昇格試験に勝ち残れる程度ならば」  実物だ、どう答える? 答え次第ではこいつへの対応を変える。 「君って絶対性格悪いよね?」 「逆に性格が良いと思うか?」 「全く思わない――クロエより強くして」 「どうしてだ? 何のために?」  我ながらに性格の悪い質問をしている。  そもそも鍛えてくれとは言われたが、理由を教えて貰ってない。  ヴァーミリオンで起こった出来事を、教える代わりに鍛えろ。  最初から対等――公平な取引と思っているならば丘と違い。  さとりの情報を知るために、シロから情報を抜くのが手っ取り早いに過ぎない。 「強くなりたいのはある――とある人に認められたい、認知されたい」  シロはどこか悲しそうに遠くを見ている。  哀愁が漂っている、まるで捨てられた子供のようだ。  儚い希望を抱き、現実に絶望をしている……答えは決まった。 「……強くなりたいのならば強くしてやる」  手を差し向ける、シロは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。  自分自身でも驚きを隠せない、強くしてやる、単なる口約束にもできる。  けれど、今俺は手を差し伸ばした。シロが手を取った場合、この取引に近いものは成立する。  少し躊躇いながらもシロは俺の手を取った。 「厳しくても泣くなよ?」 「泣く? ご冗談を、そっちこそちゃんと鍛えてよね!」  俺相手にこんな軽口を叩けるならば余裕か、本来人を教えたり鍛える柄じゃないんだがな。  師匠を持つ前に弟子ができるとは思いもしなかった。 「毎日放課後、教室に残れよ、その後移動して訓練だ」 「分かった。これからよろしくね先……師匠?」 「好きに呼べ」  ◇ 「それで弟子を持ったと?」 「何が可笑しいんすか」  最早恒例になってきた先生との密談、今日起きた出来事を話した。  先生はずっとニヤニヤしながら聞いてる。  ほんま腹立つくらいにいい笑顔してやがる、勝てる勝てない以前に、一発殴りたい。 「貴方のその強さって独学?」  先生と会話にメイド姿の天宮が横槍を入れてくる。  こいつがここでメイドの仕事を、しているのも見慣れた気がする。   「ああ、俺に師匠は存在しない、まずそんな人は近くにいなかった」 「そうか、オレにもいなかったから同じだな」  あんたに師匠がいなくても不思議ではないだろ、逆におるって言われた方が信じれない。  もし仮におったとしても戦闘の基礎を、教えれば容易く師匠越えをするだろう。 「最強と呼ばれる存在は師匠がいないのが、定石なんですか?」 「たまたまだろう」」  偶然にも同じセリフを発したため、お互いに笑みが溢れた。  すると天宮がある質問を投げ掛けてきた。 「覇王がアルドを鍛えたらどうなるんですか?」  ある意味爆弾発言のような質問、先生は不適に笑う。  背中に氷を突っ込まれた感覚に襲われた。
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