30話 特性と実力

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30話 特性と実力

 次の日。  初めてできた弟子と共に、前々から作られると言われていた訓練場。  授業ではまだ使われることがない、使った学年もまだいない状態。  特別に先生から先行で使うことを許されている。  内装はほぼ体育館と変わらない、足踏みした感じ、異様に頑丈。  壁は木材で所々窓がついてる、床はフローリングと見間違うほどに、酷似しているがコンクリートである。 「白桜、訓練場はまだ試作段階だ、だからお前で強度試してくれ」  試作段階ね、一体この訓練場をどこまでのものにする気だ? 強度を確かめるか。  多少は暴れても問題はなさそう。  それに「幾つか仕掛けを仕込んでるから楽しんでくれ」アトラクションように言うなよ。  溜息を吐いてると、横腹を突かれた。 「一体ここで何をするの?」 「まだ説明をしてなかったな、俺と今から戦うぞ、模擬戦と思ってくれていいぞ」  いつもの無表情の顔が途端に、嫌そうな顔に変わった。  本当に嫌そうな雰囲気を出している。 「なんで!? 嫌だよ! 化物なんかと戦いたくない」  中々に心のない一言だな、嫌がるまではいいだが、化物呼びは流石に来るものがある。  昔では考えられない呼ばれ方だ、ほんの少し感傷に浸ってた。 「ちゃんと意味があるから心配しなくていい」 「意味? どうして今更模擬戦? 授業で何度も手を合わしてる」  授業で何度も手を合わせているのは事実。だが本人は気づいてないだろう。  自分の実力を全て発揮してないことに、ポテンシャルがどの程度かは定かではない。  ただ、相手が俺、異能を出そうと執着しているため、肝心な部分が隠れている。 「二つある。まずはお前の実力を測る。そして特性を見定める」 「見定めて何の意味があるの?」 「戦闘スタイルを確立させる」  何も分かってなさそうに首を傾げる、口頭の説明より、体で覚えさせた方が早い。  まずは特性と実力。後々にシロの課題、武器の得意不得意を見る。  最初は素手の戦闘になる、その前にどうやって本気を出させるかだ。  決して舐めてるわけではない。実力差を感じ、自然と本来の力を発揮できてないタイプ。  いい意味や悪い意味でも物分かりが良すぎる。 「まだ不満か?」 「ボコボコにされて終わりじゃない?」  普通にやればシロの言う通りボコボコだろう。  そうなると、根本的な解決方法にはならない、普段手加減をしているがより一層抜こう。  敢えて舐めて掛かろう。 「今から訓練のスタートだ」  目を瞑り、空間だけで把握して戦おう。多分シロは戸惑っているだろうな。  動く気配を感じられない、仕方ないこっちから動くか。  軽めのパンチを数発打ち込む。敢えて殺意を込める。  大きく距離を取ったか、だったら距離を潰せばいい、パンチが一度も掠らず、気配が完全に消えた。 「流石に舐め過ぎでしょ」  無薄の打撃が飛んでくる、大したダメージはない。  だが、今までの模擬戦とは違い、アグレシッブで戦い方が上手い。  本来の実力とポテンシャルを、発揮し始めたか。  自然と口角が上がる、目を開けてシロの動きを見てみたいものだ。 「私だって多少は戦える!」  手数が多く、極め付けに色んな角度から攻撃がくる。  カウンターを打ち込んでも掠らない、当たらない。突出してスピードがある訳じゃない。  強いて言うならば空間把握能力。  まだ何個かあるだろう。潜在能力が高いから色々と秘めている。  鍛えれば鍛えるほど、こいつは強くなる。 「アルドも大したことないんだね」  物分かりは良いが調子に乗る癖もあるぽい。そこは追々矯正。 「調子に乗るのも大概な」  手刀を繰り出し、見事シロの首にあたり、俺の方へと倒れてくる。  体を支え、横にする。こいつが起きるまで行動ができない。 「あらかたお前の実力は分かった」    気絶し眠っているシロの寝顔を見ながら、とある少女を思い浮かべる。  人間性は誰よりも強い、けれど踏み入ってはいけない場所。  早く帰ってこいさとり。 「あれ? 私眠っていたの?」  考え事をしていたらシロが起きた。自分が気絶したの気付いてない感じ。  実力は分かったし、特性も何となく分かってきた。  色々と鍛える部分は勿論あるが、Fランクに収まっていい代物じゃない。  間違いなくシロは化けるだろう。  だが、それは異能や隠れている大事な部分を、本人が気付いた場合による。  それまではセンスが高い奴に過ぎない。 「第一フェーズは終了した。まず俺と戦ってみてどうだ?」 「死ぬほどに手抜かれているのに、殺されると思った」  それはそうだ、敢えて殺意を思いきり出したからな。 「だからこそ距離を取って、攻撃される前に攻撃しようと思った」 「そうか、そうか。それじゃあ次のステップに移動するか」 「なんか最初より乗り気になってない?」  シロの言葉に対して思わず、首を傾げてしまう。  乗り気? 俺がそんな訳ない、ただこいつをとことん鍛えてみたいと思った。  それだけに過ぎない。 「下らんこと言ってる暇あるならば、とっとと立ち上がれ」 「ちょっと待て! 桜宮さんのこと聞かないの?」 「まだ話すタイミングじゃないんだろ? お前のことだ、考えがあるんだろ?」  弱々しく頷いてた、それまで俺は敢えて聞かない。  何があったかは知りたい、だけどもし何事もなく、さとりが帰ってこれば問題はない。  シロが情報提供するか、さとりが帰ってくるまで、俺はこの弟子を鍛え抜こう。  そういえば仕掛けがあると言ってたけど、一体どんなだろう?
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