8話 覇王

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8話 覇王

地図に載ってないのだからあながち間違ってはいない。  暇つぶしで来たのはいいが、所持金がゼロだ。そもそも金品類船に乗った時取られた。  さとりに土産を買って行こうかと思ったが叶わないな。  だったら今度彼奴を連れてここに来てみるか。  適当に散策をして分かったのは普通の街と変わらず、色んな店が出ていた。  時々高級そうな外観をした店もあり、少し覗いてみたら意外と良心的な値段で販売していた。  ピコンと通知が鳴った、スマホを見るとさとりからだった。  『そろそろ帰ってきて広すぎて心細い』 「ふ、子供か」  不思議と口角が上がっていた。  散策もほどよくできたし、そろそろ潮時かな、帰路に着こうとした。  次の瞬間、ブゥゥオオとまるで炎でも燃え広がるような音がした、いやまさかな、音の正体を確かめる為に周りを見る。  建物が盛大に燃え、中から悲鳴が聞こえくる。  おいおい!? 一体何が起きてやがる! 建物から一人の男性が出てきた。  こっちに向かって走ってくる、安心したような表情をしながら走ってきた。  附とオイルの匂いが鼻に充満した。  それがきっと原因なんだろう、男性はだんだんと燃え始め、もがき叫んで助けを求めるように、手を伸ばした時には火だるまになっていた。  バタッと音と共に倒れるとその場で燃え続けていた。  こんな胸糞悪い現場見せられて素直に寮へ帰れるか、やった犯人を一発くらい殴っても許されるだろ?  燃え広がっている建物に近寄ると不審な人物を発見した。  俺をサンドバックのように使い、さとりを襲ったイノセクトと同様の人間が立っていた。  掌に炎を出している。どう考えてもこいつが犯人だな、一発殴ろうと思ったが相手にすると面倒臭い。 「なんだお前? 俺に燃やされたいのかな!」  考えている内に気づかれ、こっちへ猛スピードで向かってくる。  撃退をするかと考えた時声が聞こえた。 「邪魔だ。どいてろ」  その言葉を聞き、俺は一歩――何歩か後ろへと下がっていた。  気づいたら下がっている、目の前の男の一声で体が勝手に反応した。  そして一瞬――たったの一撃で炎を出している男を倒した。  こちらへ振り向き、言葉を紡いだ。 「その制服、お前クロードの生徒か」  一撃、瞬殺で倒した男の顔を見た瞬間、俺は理解した、どうして自分が勝手に後ろへ下がったのか。  今、目の前にいる男。 「覇王」  この世に生きているものならば誰もが知っている人物。クロード学園が創立する要因になり唯一のSランク。世界最強の男覇王。  そんな彼がどうして今ここにいる? 今は世界中を放浪しテロリストを殲滅している筈。  覇王は俺に近寄って苦言を溢した。 「目の前の敵くらいすぐに倒せ、すぐに死んでしまうぞ」  それだけを言い残して覇王はどこかへ去っていた。  あれが最強の男、空気感だけで次元が違った強者と分かる、今のクロエでは到底越えることはできない。  ◇   「はい皆さん今日から担任が来ます、昨日の夜戻ってきたらしいです」  思っていた以上に早く担任の登場か、一体どんな人間なんだろう?  楽しみと僅かな期待感をしていると、扉を開け入ってきた。  教壇には予想打にもしない人物が立っていた、俺を含め、その場の全員が驚愕していた。 「覇王」  シロの言葉が教室内に響く、そして全員の頭には自分たちの担任が覇王。  その情報が流れているだろう。  まさかこの人が教員? しかも俺らの担任って夢としか思えない。  もしかしたら今夢の世界かと腕をつねってみたがちゃんと痛かった。  紛れもない現実、百歩譲って教育者なのはいいが、どうして最底辺のFクラスの担任何だ? 「あ、今日からお前らの担任を務める我妻だ」 「それじゃあ我妻先生後は頼みますね。くれぐれも虐めないように」 「彼奴は一体どういう認識をしているのだ?」  覇王――先生は苦笑して俺らを見た。そして複数人を指で指した。  指されたのは俺、さとり、シロの三人。  「なるほどな、じゃあ取り敢えず、お前らの実力を知りたいから模擬戦すんぞ」  え、そんな軽いノリみたいに模擬戦をするものではないだろ?  初めての授業は担任直々やってくれる、それも模擬戦。  そんなことで実力を測れるのか? 覇王レベルになると模擬戦で分かるのかもしれない。  俺らは体育館に移動し次の指示を待つ。 「よしお前ら揃ったな、これから模擬戦を始める。それでお前らの実力を測るぞ」  どうしてだろ、この人が言うと物凄いノリ軽いなと感じてしまう。  他の連中は少し緊張気味だった。さとりに目をやるとガチガチになっていた。  無理もないか目の前には覇王、ましては担任。  逆にしない方が可笑しい、昨日の俺は気圧されたから緊張なんかしない。 「その前に……」  拳が飛んでくる、流れるように吹っ飛んだ。 「いきなり何をするんすか、もしかして先生って体罰するタイプすか?」 「そんな口を叩けるならばまだ余裕だな」  軽口を叩いて見たが、流石にいきなり過ぎて防ぐことも叶わなかった。  まるで音速のような攻撃、覇王の名は伊達じゃないって所か。  さとりたち目が点になっているな。  ◇
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