14人が本棚に入れています
本棚に追加
9話 正体がバレる!!
今一体何が起きている? 理解するのに数分掛かってしまった。
そのくらいに突然始まった、先生が我妻君を襲い、いつのまにか吹っ飛んでいた。
攻撃が一切見えなかった。視認できないほどの速さで攻撃を放った。
普通避けることができない、決して我妻君も避けた訳ではない。
けれど、何事もなかったように平然と立っている、痩せ我慢とかではなく立っている。
どうしてそんな平然そうに立ってる? 相手は大人――しかも覇王。
並の相手ならば一撃で終わってしまう。
じゃあどうして彼は今立っている?
「模擬戦って先生とやるってことなんですか? 俺ら殺す気です?」
「案ずるな、オレも鬼じゃない、お前としか戦わない」
「十分鬼だろ!」
風切り音がした、気づいた時には先生の前には我妻君がいる。
どうやら攻撃を仕掛けたようだ、こっちも攻撃が見えなかった。
体育館が軋み、激しい乱打戦が巻き起こる、風圧で吹き飛びそうになる。
耐えながらも見ようとする、一瞬思考がクリアになった、戦っている所作を視認できる。
ほぼ互角と言っていいほどの打撃戦。
パンチに蹴り、そして時折フェイントが混ぜられたハイレベルの戦い。
決してFランクの生徒がやれる代物ではない、それこそAランク以上。
「彼奴一体何者だ?」
「どうして覇王と呼ばれた先生と互角に渡り合えている?」
「正しくイレギュラー」
シロさんの言う通りイレギュラー、ドンッと鈍い音が響く、また我妻君が吹っ飛ばされたと、その場にいる二人の当事者以外は思っただろ。
実際は違う、先生が後方へ下がらされた。
「お前どうしてあの時、放火魔を撃退しなかった?」
放火魔? 一体何の話をしているんだ? 先生は首をゴキゴキ鳴らしながらゆっくり近付く。
「そもそもとして、俺は無能何すよ、戦っても勝ってる相手じゃないと、思うのが普通じゃないすか?」
「そうか、だったらオレが鍛え直してやる!」
強烈な踏み込みと同時に蹴り一閃、体を捻って避けるが攻撃は来ない。
先生は蹴りを当たる直前で止めた、気付く頃には足払いをして床へと倒していた。
そのまま馬乗りで攻撃をしている。
もうここからの打開策はないと思っていた、だが我妻君は左手でガードをし、もう片方の手で攻撃をする。
半ば無理矢理体を捻って攻撃、先生は見事に防いだ。
「ごめんだね、俺は無能のままで十分」
「遠慮するな、そういえば名前を聞いてなかったな」
「山田太郎です」
「そんなありふれた名前の顔をしてないだろう!」
今度こそ万事休すと思われた時、我妻君は立ち上がり、今度は先生が床に倒れた。
先から攻撃の所作を見えるようにはなった。けれど、今の動きは全く見えなかった。
今度は反撃するかと思ったら、途方にもない所を急に走り出した。
敵前逃亡? 見えたが急に止まり、先生を思い切り睨む。
「今何をした? 全くオレでも見えなかった」
え、あの覇王すら見えなかった、尚更私なんかが見える訳がない。
脳裏に、我妻君に助けて貰った時の記憶がフラッシュバックをする。
イノセクトをバタバタと一撃で倒していた、あの時、攻撃力が高いと思った。
今となれば論点がズレてた、注目するのは速さだった。あの時も攻撃が見えなかった。
あれを見てから彼とならばこの学園で通用すると感じた、あながち間違ってはいなかっただろう。
現に先生とお互い引かない攻防をしている。
「流石にそろそろ辞めたいんすけど? いつまで模擬戦?」
「そうだな、圧倒的な決定打か、他の目からの勝敗がつき次第終了」
「あんた楽しんでるだろ?」
「そういうお前も口角が上がっているぞ?」
指摘をされ口元を隠す、多分無意識だと思われる。
彼は自分で無能と言っているが実際違う。
いつから私は彼を無能と思っていたのだろうか、認識を始めた時には既に孤立をしていた。
口癖のように無能と言っていた。
少なくともイノセクトのリーダー格の男子は無能と罵り、学校の人間も無能と認識をしていた。
そこに関しては私も一緒、今覇王である先生と渡り合っているからって、態度を変えるつもりはない。
ただ興味が湧いてきた。
「どうして僕たちと同じFランクなのに戦っているんだ」
男子生徒が嘆いた、シロさんはイレギュラーと言った。
そこは変わらないけれど根本的にズレている気がする。
次の瞬間、破裂音に近い音が体育館の内部に広がり、さっきと比べ物にならないほどの風圧。
全員軽く後方へ吹っ飛んだ。幸いにも怪我をすることはなかった。
お互いの顔面を殴り、ちょうど拳が交差している。
再び、思考がクリア、先よりもっと鮮明に。
「……アルド」
その名を口にした瞬間、動きが止まった。我妻君は私を凝視してくる。
クラスメートも一緒、この世界に生きているものであれば誰もがしる名前。
「覇王と対になる最強」
第二の覇王とも呼ばれる存在、いつから存在しているのか定かではない。
都市伝説に近い存在とされていた。先生は口角を上げて笑った。
「そうかお前がアルドか」
◇
「ほんま痛い、あの人手加減って云うもの知らな過ぎ」
「はいはい、静かに後動かないで!」
嘆いている彼に少し冷たく言い放つ、黙って手当を受けている。
あの後、先生と我妻君の勝敗は付き、ボロ負け。
最初の互角の戦いが嘘のように、先生の攻撃が我妻君を襲い、倒れた。
多分、この学園に保健室とか医療室はあると思うけど、連れて行かずに残りの人たちで軽く模擬戦をした。
その間、我妻君は気絶しており、先生が寮まで運んでくれた。
しばらく起きなかった、様子を見に来た時には起きてたから軽く手当をしているけど、ギャギャと煩い。
少しムカつくから痛くしてあげよ。
と、わざと包帯を強くキュッと縛る。
声にならない声で痛みに苦しんでいた、少しいい気味だと感じた。
「お前今のわざとだろ!?」
「そんなことするように見える?」
最初のコメントを投稿しよう!