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永山健斗、28歳
同期の光岡がおそらく手が空いているであろう時刻を見計らって、俺はLINEを入れた。
「今、いい?」
思ったとおりすぐに既読はついて、間髪を入れずに通話がきた。
「お疲れーぃす」
どこかチャラくて人懐っこい声が聞こえた。
警察学校での同期だった光岡は今は所轄署の刑事部にいる。
全寮制で一緒に過ごすうちに、趣味のサッカーが同じこともあって意気投合して、こうしてたまに近況を話したり、休みが合えば飲みに行ったりする仲だった。
俺は警察本部の生活安全部にあるサイバー犯罪対策課なんてとこにいて、殺人事件とはやや縁遠い。
「もうさ、そっちの捜査一課の皆様が張り切っちゃってるからさあ、俺達は駒として毎日毎日聞き込みだの何だのでへとへとよ」
他ではなかなか言えない愚痴を俺に吐き出すと、光岡は声の調子を落とした。
「永山さあ、このでかい事件に興味あるのもわかるけど、本当はだめなんだぜ?」
「わかってるよ」
俺は笑いながら、今度の飲み会は奢るよ、と告げた。
「あんま核心のとこは俺達は知らねーし、知ってても言えないけど、やっぱさ、12年前の事件と似通ってるらしくて、同じ犯人なのか、模倣犯なのか、ふたつの線で追ってるな」
「俺達が高校生の頃、溺れる魚事件とか何とかって話題になったよな」
「そそ、懐かしいとか言っちゃいけないけど、当時担当してた人たちは目の色変えて追ってるわ」
音声通話の向こうで光岡が誰かに声をかけられているのが聞こえた。
「忙しそうだな、ごめん、切るわ」
「おお、すまん、わりーな」
終了ボタンをタップすると、俺はスマホを胸のポケットに入れ、ふう、と息を吐き出した。
溺れる魚、か。
川とか海とか水辺の近くで、しかも雨上がりに死体が見つかる事件。
俺はぐっと腕を上に伸ばしてひとつ欠伸をすると、残る仕事を片付けに戻った。
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