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永山健斗、18歳
「先生」
大きな背中に声をかけると、のっそりと振り返った。
「よお」
短く答えたその声には、歓迎とは程遠い響きがあった。
また来たのか、といったところか。
俺は構わずに先生の腰掛けるベンチの隣を陣取った。
「大学決まったからさ、その報告」
夜の公園は静かで、スポットライトのように俺たちのベンチを照らす電灯は、やや力なく点滅を繰り返していた。
「下宿だから、長期休暇になったら会いにくるよ」
3月の夜の空気はまだ冷たく、俺が言葉を発するたびに白い湯気がたった。
「就職はこっちでするつもりだし、しばらくは…」
「俺はもうここにはいないかもしれんぞ」
何処か遠いところをみつめて、俺の言葉を遮った。
突然発せられた言葉に俺は軽く目を見張ったが、やがて口元を緩めた。
「いいや、先生はここにいるね」
先生が目線を動かすことはなかった。
「退屈に追いつかれたくないだろ」
先生の口元から大量の湯気がたった。
声をたてないまま笑ったのに相違なかった。
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