先生

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先生

退屈から逃れるためなら何でもする。 信条というほどでもないが、それが行動原理だ。 選択肢があるときは、困難なほうを選ぶ。 安易に流れた瞬間、退屈はやってくる。 矛盾が生じたとしても、そこだけは一貫している。 必要があれば金持ちにもなったし、ホームレスにもなった。 ただ、群れるとだめだ。 互いに利用し合うくらいがちょうどいい。 情なんてものは、足枷にしかならない。 だが、あのとき想定外は起こった。 運命は自分で拵えて制御するものだが、読みきれなかったときがあった。 あいつに知られた。 どうするかを天秤にかけたとき、あいつがいたほうがより困難だ、と思った瞬間、道は決まった。 あいつは同じにおいがした。 退屈を憎む同志であると同時に、新たな緊張感を生み出す敵同士でもあった。 先生、などと呼ぶが、より単純で、より複雑な関係だった。 ほしいものは、お互いが持っている。
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