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永山健斗、17歳
台風が近づいていて、ひどい土砂降りだった。
暴風警報がそろそろ出るかも、というところで、塾は早めに切り上げることになった。
いつもなら公共バスで帰るが、渋滞のせいで次の便がいつ来るのかはわからなかった。
親に電話して迎えに来てもらう同級生もいたが、我が家はそれは望むべくもない。
仕方がなく、徒歩で帰ることにした。
かなりの距離はあるが、バスの路線を1時間も歩けば着くであろう。
模試の結果が可もなく不可もなく、急いで帰りたいわけでもなく、気分転換したかったのもあったかもしれない。
何となく近道な気がして、いつもは通らない道を傘を両手でしっかりと掴みながら歩いた。
早速太腿から下がずぶ濡れになる。
移動中は音楽をイヤホンで聴くのが常だったが、こう雨が強いと何も聞こえないし、何だか億劫だった。
河原沿いの歩道まで出たとき、ふと気配を感じた。
違和感、と言ったほうがいいだろうか。
雨の向こうに、ふたつの影。
ひとつは倒れていて、ひとつは立っていた。
立っているほうと、目が合ったのがわかった。
こんな土砂降りの夜だというのに。
その強い眼光から目が離せなかった、というのが正しいだろう。
俺は、世界が一変した瞬間を自覚した。
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