悪魔王子の旦那様は今日もツンとデレている

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「リリー……か」 ルーカスはその名をあえて口にする。 幼い頃、たった一度だけ会った初恋の君だ。ルーカスは彼女のその純真な眼差しと彼女の優しさに一瞬で心を奪われたことを思い出す。 彼女は今どこにいるのだろうか。 自分との約束を忘れずにいてくれているだろうか。 「ルーカス様が長年探しておられるリリーという名の女性がお一人だけリストに含まれておりましたので念のため印をつけておきましたが……おそらく違うかと」 カイルはすでにため息を吐き出しそうな、晴れやかとは程遠い顔で主人を見つめた。 「理由は? エヴァンズといえばノース騎士団長の?」 「はい、ノース騎士団長を務めるザッハルト公爵のご息女です。なんでも剣技に優れており年頃だと言うのに婚約者候補を片っ端から剣で負かす、大柄で気性の荒い熊のような女性だとか?」 「熊だと?!」 その言葉にルーカスは緩みそうになった口元に力を込めた。なぜなら記憶の中の彼女とリストのリリーは似ても似つかわないからだ。そしてその熊こそ森で彼女に出会ったキッカケでもあったから。 「ふっ、お前がなぜそんな顔をしてるのかよくわかった。俺の探しているリリーでは無さそうだな」 「申し訳ございません」 「しかし不思議だな。その熊のようなこの娘も花嫁候補として参加というわけか?」 「それはどうでしょう。ダンスパーティにも初めて参加するようですし、何より不可解なのは彼女は結婚願望がなく大の男嫌いだそうです」 「では何のためにその公爵令嬢はパーティーへ?」 「わかりません」 ルーカスは顎に長い指先を添えるとしばし、考え事をする。 「……なるほどな、何か彼女には理由がありそうだな」 「はい。また当日までにもう少し家族構成など調べておきます。想い人の可能性は限りなく少ないですが、例の事件になんらか関与している可能性もございますので念のため」 「助かるよ、また報告してくれ」 ルーカスは有能な部下に淡く澄んだ碧い双眸をわずかに細めた。
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