<26・工場。>

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「俺達は今星の宝玉を持ってないし、その行方も知らない。そして見つけたところでそれを悪用するつもりもない。悪用されないように破壊して、星の宝玉による災厄が起きないようにする。それが目的だからだ。あんた達の目的はなんだ?宝玉で、何か叶えたい願いでもあるのか?」  戦うことを覚悟してここに来たが、当然戦わなくて済むならそうしたい。蘭磨の意図が通じてか、律子が少し困ったように“主”を見る。  どうやら見た目は幼くとも、この二人の主従関係は完全に凛空が上ということになっているらしい。 「あるとも。……まあ、お前たちが軍門に下ってくれるならそれに越したことはない。一応話すだけ話しておいてやる」  少々偉そうな言い方だが、会話をする気はあるようだ。凛空はにやりと笑った。 「僕達……正確には、僕等が仕えている“あのお方”の目的はただ一つ。二度と、この世に戦乱を取り戻さないこと。あらゆる争いを宝玉の力で収め、真の平和な世を実現することだ」 「何だって?」 「確かに、この国ではかつて宝玉の力を使った争いが幾度となく繰り返されてきた。宝玉の力で欲望を抑えきれなくなった者もいれば、人格が変わった者、血みどろの争いを招いた者もいるのは知っている。だが、宝玉自体の力は本物なのだ。人間の手では叶えられない願いを叶える、唯一無二の手段であるのは間違いない。それこそ、宗教を巡って争っている遠い国の戦争だって、宝玉に願えば簡単に終わらせることができる、そうだろう?」 「!」  それはマジか、と蘭磨は思わず信花を見る。彼女は苦い顔で、できるであろうな、と言った。 「儂もそこまで詳しくはないがの。宝玉に願えば、理論上はあらゆる願いが叶うということにはなっておる。戦争を終わらせ、平和を齎すこともできよう」  じゃが、と信花は呻いた。 「それが真の解決になると思っておるのなら、大きな間違いであるぞ。戦争を終わらせるために、その宗教を信じていた者達に神を捨てさせ、思想を曲げさせるような真似が正しいはずがない。宝玉の力は凄まじいが、凄まじいからこそ人の意思を簡単に捻じ曲げる。それで得た平和を、儂は平和と呼びたくはない!」 「ええ、そうですわね兄上。あなた様のご意見も正しゅうございますわ」  口を挟んできたのは、律子。彼女は冷たい目で“兄”を睨んで続けた。 「それで?あなた様はどうなさるおつもりで?星の宝玉を見つけたとて、簡単に壊せないこともわかっているでしょう?誰かが持ち続けたら持ち続けるだけ争いの火種となるのは明白。ならば、正しき者が持って、平和を齎すことこそ正義ではないのかしら」  あなたにはできなかったでしょう、と律子は言う。 「ええ、あなたにはできなかった。あなたは理由をつけて戦を繰り返しただけ。歴史が証明しているわ。戦乱の世を終わらせることができたのは、誰の力だったと思っているの?」
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