<27・黒幕。>

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 家康は恐らく誰より早い段階で、星の宝玉の存在を知り、正しい管理と使い方を模索していたのだろう。それを使うのが正しいかどうかは別として、“使うのであれば私利私欲に走らず、世の為人の為に使えるものであるべき”というのは間違っていないように思う。  しかし、織田信長は宝玉を管理することを望まなかった。  これこそが災厄の種と考えて、破壊することを目論んでいたのだ。家康が宝玉を奪うためやむなく影の鳥を仕向けたのも仕方ないことではあったのだろう。 「家康殿も心を痛めていただろうさ。信長のことは主として尊敬していたようだからな。もし信長が宝玉を正しく使ってくれるのであれば、それ以上のことはなかっただろう。しかし、家康殿は傍で織田信長を見ているうちに疑心を抱いたそうだ。……この人に宝玉を使わせても、平和な世界は訪れぬ。何故なら織田信長は生粋の戦人であり、争いこそ人の進化に必要なものと考えているからだ、と」 「そ、それは……確かにそのようなことを言った覚えはある、じゃが!」 「その上、星の宝玉を破壊することを考えているという。星の宝玉の力があれば数多の民を救えるはずだというのにそれを放棄しようとしていると。断じて許すことはできない。あの方は、苦渋の決断をなされたのだ。そして……僕とお市も、その覚悟に準ずることにした、というわけさ。理解したか?」 「そ、それ、は……」  信花は動揺したように視線を揺らす。 「……儂は、平和を否定したわけではない。しかし、争いを完全に防ぐことはできぬし、荒そうことで人が進化してきた事実を否定はできぬと言ったまでじゃ。人は競い合うからこそ、より良い自分になろうとする。無理に押し付けた平和は、人々から不満を持つ権利、弱音を吐く権利をも奪う。それはまことに平和ではない。儂は、玉の力で人々から無理やりに競い合う心を取り上げるのはおかしなことだと言ったまでよ。それの、何がおかしいというのか!」 「……ああ」  そうだ。蘭磨は頷く。  確かに、今この世界には数多くの争いがある。この日本という国に現在戦争はないが、海外では毎日のように誰かが死んでいく紛争地域があり、大国が、圧政者が、弱い人々を虐げている現実があるのかもしれない。  だが。  争いが起きるのは、必ずなんらかの原因があるのだ。  例えば、信じている神様が違うせいで聖地を取り合っている国と国があるとして。その者達に、聖地を半分にしろと言って納得するだろうか?納得しない者達から無理やり争う心を奪い取り、無理矢理民を半分に分けて住まわせることは正義なのだろうか?  勿論、綺麗事を言っていてはいつまでも解決しない問題もあるのかもしれない。しかし、人の心を、人格を踏みにじって平和を押し付けた者にはきっと同じしっぺ返しが来るのだ。
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