<27・黒幕。>

4/4
前へ
/115ページ
次へ
「我が名は浅井長政!この令和の世にて、織田信長を討ち取る者の名よ!くらえ、“朱ノ竜巻(あけのたつまき)”!」  まずい、と蘭磨は後退り、叫んだ。 「逃げろ!」  巨大な炎の渦がどんどん大きくなり、こちらを飲みこまんと襲ってくる。これは一度建物の外に出るしかないかと蘭磨は考えた。傍にいたエリオットとアイコンタクトを交わし、工場の外へと走る。  案の定、炎の渦は外までは追ってこなかった。なんだ今の攻撃は、と蘭磨は眉をひそめる。確かに強力な技であったが、大味がすぎる。工場の建物すべてを消し飛ばしてしまいかねない勢いだった。しかも、渦が大きくなる速度が遅い。あれでは自分達が逃げられてしまうというのに。 「なんてこと」  やがて、しのぶが叫んだ。 「父上がいませんわ!」 「何!?」  そんなバカな、と蘭磨は周囲を見回した。途端、がしゃん!と音を立てて工場の入口の大扉が閉まってしまう。やられた、と蘭磨は舌打ちをした。最初に気付くべきだった。浅井長政=凛空は織田信長=信花と一騎打ちで決着をつけたがっている。ならば、彼女だけを隔離する方法を選んでもなんらおかしくなかったではないか、と。 「長政様の意向よ」  大扉の前に、お市の方こと律子が立ち塞がった。その手には、着物の帯のようなものが握られている。薄紅色の帯はキラキラと怪しい輝きを放っていた。  蘭磨は眉をひそめる。そのお市の方の周囲に、何人もの男達が集まってきたからだ。腕に刺青があったり、ピアスだらけだったりと明らかにカタギでなさそうな者達ばかり。しかもみんな、視線は映ろで正気を失っている。どうやら、律子に操られているらしい。 「二人の決着がつくまで、ここを通すわけにはいかないわ」 「お市、お前……!」 「安心して?この者達はみんなこの近所の半グレの者達ばかり。死んでも誰も悲しまないような連中ばかりよ。さっさと殺してあげた方が世間のためかもしれないわね」 「ふざけるな、そんなことできるわけないだろ!」  中に残されたであろう信花を助けるためには、お市とその傀儡をなんとかしてこの場を突破するしかない。蘭磨は不動行光を構えて叫ぶ。 「なら、仕方ないわね。……ふふふ、どこまでその理想が通せるか、やれるだけやってごらんなさいな」  ばし!と帯を地面に叩きつける律子。その途端、薄紅色の光が飛び散った。 「さあ、行くのよ我が同胞……タマモゴゼン。その力、奴らに存分に見せつけてやりなさいな!」
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加