<28・律子。>

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 正直、傀儡の男達を攻撃してもあまり意味はなさそうだ。しのぶが男達を引き付けて走り、切り返すと同時にコノハテングの翼を顕現させる。 「“黒ノ烈風!”」 「ウオオオオオっ!」  彼女の背から開いた漆黒の翼。そこからいくつもの小さな羽根が飛び、男達の手足に突き刺さっていく。足を傷つけられた者達は明らかに動きが鈍り、手を傷つけられた者は得物を落とした。が。  こちらは手加減を強いられている。しのぶとてさっきはああ言ったが、できれば殺したくないに決まっているのだ。勿論、操られているだけの者達に後遺症が残るような怪我もさせたくはない。いくら半グレ系の、人に迷惑をかけているかもしれない人達だとしても、今回の件に関しては無実なのだから。 ――兵法の王道的には、操ってる本人を倒すのが定石なんだけど。  さっきから律子に近づこうとしているがうまくいかない。彼女に近寄ろうとすると男達が間に入ってきて妨害してくるからだ。  恐らく、律子を攻撃して“浄化”に成功すれば能力が解除されてしまうからだろう。せっかく手駒を多く用意したところで、総崩れになってしまっては何の意味もないのだから。 「手足を攻撃して全体の動きを鈍らせ、一体一体浄化していくしかないのではないかしら」  しのぶがやや苛立ったように言った。 「問題は。それこそがあちらの狙いだろうってことですけど」 「それだよな……」  律子はさっきから、傀儡で攻撃してくることしかしてこない。一体ずつ確実に傀儡を浄化していけば、時間はかかるがいずれ詰みにはもっていける、追い詰められるとわかっていないはずがないというのに。  理由は恐らく二つ。一つは、これが時間稼ぎを兼ねているということ。傀儡たちを使って蘭磨たちを倒せれば良し、できなくても信花と凛空の一騎打ちの決着がつくまで時間稼ぎができれば良し、そういう二段構えだと思われる。  そして、もう一つの理由は。 ――操っている人数が三十人超だと仮定。……彼女の能力の幅がどれくらいかはわからないが、常識的に当てはめるならこの人数を同時に操るのは並大抵のことじゃない。ていうか人間の脳の容量を鑑みても、全員マニュアル操作するのは現実的じゃないだろう。  彼女がこの場にいて、能力の有効範囲が狭くてもどうにかなるとしても。  一人一人、全員マニュアルで操作するのはあまりにも困難だ。コンピューターゲームと一緒である。蘭磨が大好きなサッカーゲームは、ボールを持っている人間はプレイヤーが操作するものの、それ以外の選手は指示を出さない限りオートマで動く仕組みだった。十一人全員を動かすのは、プレイヤーの力量的にもあまりにも困難だからだ。
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