<28・律子。>

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 ということは。傀儡たちは人数が多い分、単純な命令を与えられて自動で動いていると考えるのが妥当なところだろう。 ――恐らく二つの命令が与えられている。……律子を守れ、敵を持っている道具で殴れ、だ。  ざっと男達を見回していくつか気づいたことがある。彼等はさっきから得物で殴りつけることばかりしてくる、ということだ。バットで殴ってくる者、刀で切りつけてくる者、鉈を振りかぶってくる者。本来、しのぶはともかく蘭磨とエリオットは小柄で、上から殴りつけるには少々不向きな相手だ。相手がかがんできたら蹴り上げた方が早いケースも多い。にも拘らず、彼等は足を“走るため”にしか使っていないように思う。  同時に。 ――さっきエリオットに手首を切られた奴。何度もすっぽ抜けてるのに、ハンマーを何度も拾い直してる。そのたびに立ち度も合って動きが止まるってのに。  エリオットを追いかけて走る集団から一人遅れた男を見て、蘭磨は目を細めた。  やはり、単純な命令しかされていない。そして、軌道修正ができない。律子からも新たに細かな命令が降りてきていないのも明白だ。  その上で。 「さっさと殺してしまえばいいのに。多勢に無勢、追い詰められていくだけよ?」  帯をひらひらと振り、時折地面に叩きつけて笑っている律子。傀儡たちに気を取られていてもこちらの動きが止まっていても、彼女から直接攻撃が飛んでくる気配はなし。やはり、傀儡たちをこの人数動かしながら、それ以外の攻撃をするのは不可能だと考えるのが自然。  ならば。 「……あの凛空とかいう子も気の毒だな」  蘭磨は律子から距離を取ると、わざと挑発しにかかった。 「あんた、あの子の伯母さんなんだっけ。前の親がどうだったかは知らないけどな、あんたに引き取られることになったあの子も気の毒だよな。……平気で小学生に、人殺しさせるようなやつが親になるなんて!」 「なんですって?」 「あんたそういうのに抵抗ないんだろ?だから俺達に、半グレどもなんかさっさと殺せってせっつくんだろ?きっとあの子にも同じように命令したんだよな。理想のために、前世のためにって言って、人殺しを肯定してきたんだろ。あんな小さな子の手を平気で汚させる親なんざろくなもんじゃない。あの子が気の毒で仕方ないね!」 「な、なななっ……」  過激なこと、間違ったことを言っているのは承知の上だ。明らかに、律子と凛空では、凛空の方が上に立っている。律子の元に引き取られたいと言ったのも凛空の方かもしれないし、彼女が頼んだところできっと凛空は自分の意に沿わない行いはしないタイプだろう。
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