<28・律子。>

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 それがわかっていて、わざとこんな物言いをした。本当は彼等のことなんか何もしないのに首などつっこみたくないし、傷つけるようなことを言いたくない。しかし。 「あ、あんたに……あんたに何がわかるってのよ!」  案の定、律子はあっさり激昂した。思った通り、彼女にとって己と凛空の関係は聖域以外の何者でもないのだろう。それを踏みにじられるのは我慢ならないに違いない。 「ら、蘭磨さん?何を……」 「よく聞け、エリオット」  驚いて傍に寄ってきたエリオットに、蘭磨は耳打ちする。彼ははっとしたように目を見開くと、すぐに蘭磨から離れてしのぶの方へ走った。理解が早くて本当に助かる。 「あんたに、あんたにだけは言われたくないわ。恵まれているあんたにだけは!」  そんな自分達の様子に気付いているのかいないのか、律子は帯を地面に叩きつけて激怒した。 「あんたにわかるわけ?前世の記憶が蘇って、真に愛する人に出会えたと思ったら……その子が私の妹に虐待されてる甥っ子だった気持ちが!血のつながりもある上、わたし達の年齢差じゃ結ばれる望みもない。結婚なんかできない。でも、でもあんた達は、あんたと信長は……ああああああああなんでよ、なんであんた達だけ、そんな風なのよ!前世では男同士だったくせに、今度は異性になって、しかも同い年だなんて!なんでそんな未来があるのよ、なんでよ、間違っているあんた達だけ、なんで!」  ああ、そういうことか。蘭磨は苦々しい気持ちになった。最初に顔を合わせ時から、どうにも凛空より律子の視線が気になっていたのである。ある意味信花より、蘭磨を意識しているように見えたから。  彼女たちの絶望がわかるなんて、蘭磨には言えない。  愛する人と転生したのにけして結ばれない間柄だったなんて、あまりにも悲劇なのは間違いないだろう。それで嫉妬するなと言うのは無理ある話だ。でも。 「本当に愛してるなら、あんな小さな子に罪なんか犯させるなよ!人を殺してでも傷つけてでも進もうとするなんてやっぱり間違ってるだろ。あんたがお市で、親で、伯母なら。どうしてそれを止めようとしないんだ!」 「うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!あんたにだけは説教されるいわれなんかないわ!八つ裂きしてやる!!」
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