<3・子孫。>

3/3

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
 ***  歴史上のミステリーとして、明智光秀の件はよくよく語られるものの一つだ。  元々は織田信長の忠臣であったはずの明智光秀が、何故本能寺の変を起こして織田信長を討つに至ったのか。  結局彼の天下は十一日しか続かなかった。主君を裏切ったとされる彼は周囲からの信用を失い、多くの武将たちを敵に回し、秀吉に山崎の戦いで破れて散ることとなるのだから。その結果、三日天下、なんて不名誉な言葉まで生まれてしまう始末である。結局彼が何をしたかったのかはわからずじまいとなっているのだ。  一説によると、織田信長に冷遇された恨みが爆発したのでは、とも言われているがそれも定かではない。いかんせん、彼の心は彼にしかわからないまま、あの世まで持っていかれてしまったのだから。 「お前は知ってるのか?明智光秀が、どうして織田信長に反旗を翻したのか」  とりたてて歴史が好きなつもりはなかったが、それはそれとして興味のある話題ではある。  蘭磨が問いかけると、うぬ、と信花は頷いた。学校を出て、住宅地のある方へと歩いていく。――蘭磨の家のある方角を知っているのだろうか?なんだか、普通にこっちの家に向かっている気がするのだが。 「明智光秀は、けして主君に歯向かいたいわけではなかった。そして、儂も光秀とは敵対なんぞしたくはなかった。しかし……そうするしかのうなってしまったのだ。儂が、“星の宝玉”を手にしたがゆえに」 「星の……宝玉?なにそれ?」 「知らなくて当然。星の宝玉について知る者が皆、全力をとしてその記録を抹消して回った。それが争いを産むものだと知っていたからこそ。そして、悪しき者の手に渡れば最後、どのような地獄が齎されるかも知っていたからこそ。……星の宝玉とは、ある条件を満たすと絶大な力を与えてくれるアイテムだと、そう思ってくれて構わない」 「は、はあ」  なんだろう、急に話が歴史からファンタジーになってしまったような。まるで、七つ集めると願いを叶えてくれるドラゴンの玉、みたいなかんじではないか。 「遥か昔から、この国は星の宝玉を巡って争いが繰り広げられてきた。儂が知る限りでは、卑弥呼の邪馬台国の時代からよ」  てくてくてくてく。  学校の裏門から出て、橋を渡り、河川敷を歩いていく信花。まだ小学生がやっとちらほら帰り始めた時間ということもあって、近くにほとんど人はいなかった。買い物袋を籠にいれた主婦や、犬の散歩をしているおじさんなどと時々すれ違う程度だ。 「本能寺の変が起きる直前、儂は苦労の末星の宝玉を手に入れた。これさえあれば、叶わぬ願いなどないと、信じてやまなかった。だが……」  振り返り、首を横に振る信花。 「それは叶わなかった。何故ならすぐ、儂が宝玉を手に入れたことが多くの武将たちの耳に入ってしまったのだから。儂を暗殺する計画……中には、あやかしと契約を結ぶ者まで現れた。ゆえに、明智光秀は苦渋の決断をしたのだ」 「ま、まさか」 「そうよ。儂は、明智光秀に殺されたのではない。あの者は、最後まで儂の忠臣であった。あの者と、蘭丸、そなただけは……」  信花がそこまで言った、その時だった。彼女は突然、ぎょっとしたように顔を上げる。そして、次の瞬間。 「避けよ、蘭磨!」 「!?」  彼女に腕を掴まれ、強引に引き寄せられた次の瞬間だった。  ドドドドドドドドドドドド!  さっきまで蘭磨がいた場所に、大量の矢のようなものが降り注いできたのである。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加