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咆哮と同時に、律子は激しく帯で地面を叩いた。くるり、と傀儡となった男達が一斉にこちらに向かってくる。狙い通り、と蘭磨は笑って走り出した。しのぶとエリオットがかなり削ってくれたおかげで、男達の動きがだいぶ鈍くなっている。そして。
「エリオット!しのぶ!」
「わかりましたです!」
「OKよ!」
彼らの名前を呼んだ。エリオットが鉄扇を、しのぶが黒い翼を構える。そして。
「“紫苑烈火”!」
「“黒ノ散弾”!」
紫色の竜巻が黒い翼の散弾を巻き込んで、律子に襲い掛かった。
「し、しまった!」
律子の動きが止まる。彼女は工場の扉を背に立っていた。自分がこの場を離れれば、攻撃は扉に直撃してしまう。しかし、彼女があのままその場にいれば攻撃に巻き込まれるだけだ。
――傀儡への指示は二つだったはずだ。敵を攻撃せよ、律子を守れ。恐らく後者の命令の方が優先度が高い。だが。
蘭磨にブチギレた彼女は、蘭磨にほとんどの傀儡を差し向けてしまった。蘭磨のところまで走った二十数人は、今から律子のところに戻っても間に合わない。ただでさえ足を怪我している者が多いから尚更に。
そして残る数人だけでは、あの竜巻から律子を肉盾となって守ることは難しい。とくれば、彼等が律子を“守る”行動として、出来ることは一つだけ。
「ビンゴ!」
律子の意思を無視して、数人の男たちが律子を抱え上げてその場を離れた。マニュアル操作ではなく、オートマ操作だったからこそ発生した必然。攻撃は律子が立っていた場所のすぐ後ろ、扉を直撃し、破壊することになる。
「そ、そんなっ……!」
余波で吹き飛ばされながら、律子が叫んだ。
「さ、最初から、これを……あああああっ!」
そう。
時間稼ぎが目的とわかっているなら、付き合ってやる理由はない。信花を、たった一人で凛空と戦わせる道理はないのだ。
――一緒に戦うんだろ、信花!だから、俺は……!
律子が気絶したことで、男達が皆力を失って倒れていく。派手に破壊され、吹き飛んだ扉。その向こう、工場のフロアが見えた。
「な……信花!」
思わず叫ぶ蘭磨。工場の外と同様、中も酷い有様と化していたのだ。あちこち鉄製の棚が倒れ、パイプが崩れている。そして。
「う、ぐ……」
頭から血を流し、信花が膝をついているのがいたのだ。
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