<29・決着。>

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 道理で、工場の内部の壁やら棚やらが壊れているというわけだ。蘭磨は天井を見上げる。あちこち罅が入り、鋭い爪で引っかかれたような傷も多数見受けられた。壁より焦げている箇所が多いのは、信花が天井へ向かう炎を防げなかったからだろう。 「儂は考えることはとんと苦手じゃからの。対策が思いつかなくて手をこまねいていたが……」  おぬしならできるか?と信花は告げる。その目にあるのは、信頼。 「……ああ、任せろ」  蘭磨は頷いた。  それが、自分の役目だと。 ――足らないところがあってもいいんだ。……独りじゃないんだから、俺たちは! 「薙ぎ払え、浅井一文字よ!“朱ノ竜巻(あけのたつまき)”!!」  凛空を中心に、再び巨大な炎の竜巻が発生する。蘭磨はすぐにしのぶ、エリオットのところに走った。 「全員四隅へ散れ、でもって天井へ最大火力で攻撃!」 「!」  蘭磨の意図を察したのだろう。しのぶもエリオットも、もちろん信花も何も言わずに従ってくれた。しのぶ、エリオット、信花がそれぞれフロアの隅へ走っていく。蘭磨は彼等が行かなかった最後の角へ駆けた。 ――この工場は、ほぼ正方形の敷地に立っている。  走りながら思考を回す。 ――竜巻は性質上、中心から円形に広がっていく。余りの巨大さにさっきは慌てて外に逃げるしかないと思ったが、実際は建物内部にも逃げ道はあるんだ。その形状上、円の隙間……四隅に炎は届かない!  そして。炎の竜巻は上へ上へと立ち上るので、縦に範囲が広い攻撃である。裏を返せばそれは天井への負担が大きいということ。壁よりも天井が派手に罅割れ、焦げていたのはそのためだろう。  ということは。既に凛空と信花の攻防の繰り返しで、天井は相当脆くなっているということで。  竜巻が彼を中心に円形に広がっていく技ならば――広がるにつれ中心部の圧力は弱くなっていくということで。 「今だ!」  蘭磨は叫び、不動行光を天井に向けて掲げた。  自分の力は浄化の力。直接何かを壊すのには本来向いていない。その代わり――あらゆるエネルギーの起点となっている場所を見極め、そこを攻撃することはできる。天井は既に、四隅にどうにか引っかかるような形でどうにか形状を保っている様子だった。  ならば、そこを同時に攻撃すれば。 「“残照連撃”!」 「“黒ノ烈風!”」 「“紫苑烈火”!」 「“藍蘭浄罪(あいらんじょうざい)”!」
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