2人が本棚に入れています
本棚に追加
あっと思った瞬間、夕焼けにの赤に溶けるようにして二人の姿が消えていく。同時に、周囲から車が走る音や、遠くで響く人の声などが戻ってきていた。――元通りになった、工場の建物と共に。
「あの黒い珠、あいつらの一派に手渡されてるみたいです。彼等が撤退する時によく使うんですよね。多分、幹部かボスの能力なんでしょう」
はあ、としのぶが派手にためいきをついた。
「どーするんですの、父上。結局逃がしちゃったし。敵がやばい、ってことしかわからなかったじゃないですか!」
「……まあ、そうだのう。でも、“敵がやばい”が分かっただけで十分ではないか。みんな生き残ったし、それに」
にっかり、と信花は笑った。
「敵は“悪”ではない。共に違う平和を求めているというだけということがわかったのじゃ。ならば、戦っていくうちに分かり合うこともできるやもしれぬ、そうであろう?」
これだよなあ、と蘭磨は苦笑するしかない。敵を殺すではなく、倒すではなく、分かり合うことを目指すために戦う。ついさっき殺されかけたばかりの人間とは思えない。
「ったく。そういうところだよ、お前は」
そういうところが好きなんだろう、きっと。
心の中で呟いたのがわかったのだろうか。エリオットとしのぶが同時に振り返ったのだった。そして。
「言っておきますけど、私、信花様の妻になることを諦めてませんですからね。前世で正妻だったのはこの私、帰蝶なのですからね?」
「はい?」
「それを言ったらわたくしだって!父上の最愛は、我が子だったこのわたくしですわ。小姓なんかに負けませんわよ、現世でも!」
「は、はい?」
蘭磨はじり、と後退る。
どうやら、星の宝玉を巡る戦い以外にも面倒事はあるらしい。これからどうなってしまうやら、先が思いやられるところである。
「おい、どうした?帰るぞ?」
当の信花は、ちっとも気づく様子もなくきょとんとしているのがまたなんとも。
――まったくもう。
当分はこういう、騒がしい日常が続くようだ。蘭磨は諦めて、今行くよ、と返したのだった。
夕焼けが綺麗で、今自分達は生きていて、独りではない。ひとまずはそれで、いいことにしてしまおう。きっと今それ以上に大事なことなんてないはずなのだから。
最初のコメントを投稿しよう!