<4・信忠。>

1/4

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ

<4・信忠。>

「な、ななな、な」  一体、何が起きたというのか。唖然とする蘭磨を庇うように、信花が一歩前に出る。  道に突き刺さった何本もの屋が、しゅるしゅると煙のように消えていくのが見えた。しかし矢が突き刺さっていた場所はまるで炎で焼かれたように焼け焦げている。さながら、火矢で刺し貫かれでもしたかのように。 「宝玉がこの世に蘇ると同時に、多くの武将たちが転生しこの世に舞い戻った」  信花が右手を突き出すと、その手に刀のようなものが出現した。 「宝玉は人を惑わし、人に力を与え、再びこの世を戦乱へ導かんとしておる。……そして宝玉を狙う者らは、儂らの命をも狙ってくるであろう」 「なんで、そんな」 「決まっておる。戦国の世で、一番最後に宝玉を持っていたのが儂と蘭丸、おぬしであったからよ。儂らがこの世から退場したあとも、どこにあるかもわからぬ玉を巡って争いが起きた。一説によると、日本が真珠湾攻撃に打って出た原因の一つに、星の宝玉が絡んでいるともいう」 「な……」  そんなバカな、と言いたい。でも。 「儂らがまだ玉を持っているか、あるいは玉の行方を知っていると思っている輩は多い。ゆえに、儂らが転生してきたとあっては命を狙う者は少なくないということ。ゆえに、近々儂にもおぬしにも奇襲はあるとは思っていたが、まさか……」  信じられなくても、現実はそこにあるのだ。  飛んできた矢。焼け焦げた地面。それから――弓矢を構えて、ゆっくりとこちらに近づいてくる少女の姿。  彼女は中学生らしく、セーラー服を着こなしていた。長い髪が美しい、絵にかいたような大和撫子だ。その手に、明らかな凶器を携えてさえいなければ、傍を通っても警戒することなどなかっただろう。 「どういうつもりじゃ」  知り合いなのだろうか。  信花は、少女に対してきつい視線を向ける。 「儂を狙ってくるとしたら、前世で織田と敵対したことがある者……がほとんどであると思ったがの。……何故、おぬしが攻撃を仕掛けてくる?信忠よ」 「は!?」  そんなバカな。蘭磨は信花と少女を交互に見比べた。  信忠、と言われて思いつくのは一人しかいない。織田信忠。信長の息子であり、最後まで信長と志を共にし、織田家の家督を受け継いだ人物であったはず。  織田信長は邪魔者を容赦なく消すことから、非常に敵が多い人物だった。だがしかし、実子である織田信忠は違う。父が本能寺の変で討たれたと知るやいなや、仇討ちをせんと真っ先に飛び出していくほど父を敬愛していたはずだ。残念ながら明智軍の伊勢貞興に追い詰められ、若くして自害することになったはずだが。 「まさか……あの人も、転生者だって言うんじゃないだろうな?それも、織田信忠、だって?」  思わずひっくり返った声が出た。信花は“そうだと言っておるだろうに”と呆れて振り返る。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加