<4・信忠。>

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「信じられないだろうが、ここはもう信じて貰う他あるまい。おぬしもはよう森蘭丸として目覚めないと、どこぞの武将かその部下に殺されて終わるぞ」 「め、目覚めろって言われたって。というか、本当にもう、こんなこと……」 「なるほど、森蘭丸はまだ目覚めていないのですわね」  困惑する蘭磨を遮るように少女が告げた。彼女は長い髪を掻き上げると、お初にお目にかかります、と頭を下げてきた。 「わたくし、小川しのぶと申します。お父上、戦国の世以来でございますね。お会いできてうれしゅうございますわ」 「……覚醒した転生者は、顔を合わせればと聴いてはおったが、事実であったらしいのう。会えて嬉しいなどと言うわりには、随分な挨拶である気がするが?」 「比例をお詫びいたしますわ。しかし、必要なことなのです。わたくしは……わたくしは二度と、父上を死なせるわけには参りませんから」  しのぶの目が、まっすぐに蘭磨を見た。思わず、背筋に冷たいものが走る。  目が、まったく笑っていない。  正確には、“父”である“信長=信花”を見る目と、自分を見る目があまりにも違う。 「わたくしは許せないのです。父にあれだけ寵愛を受けながら、まるで役に立つことなく……主君をおめおめと殺された男が、今なお父上の傍にいることが」  氷のような眼が、蘭磨を射抜く。 「我々がこの令和の世に目覚めたこと。それはすなわち、侍たちの魂を賭けた戦いが、再び繰り返されようとしていることでもあります。父上らが最後に宝玉を持っていずこかに消えたことは多くの者達が知るところ。いずれ、父上と蘭丸の元には様々な刺客が訪れることでしょう。そんな時。……そんな時、その男をまだ傍に置いておくことは、リスクしかございませんわ」 「待て、しのぶ、儂は……!」 「父上は黙っていて貰えますかしら。父上が、実際の評判に対してとても優しい方であったことを、わたくしだけは知っております。いくら歴史書に冷酷無慈悲、残虐非道の魔王と書かれていても、わたくしだけは本当の歴史を知っている。その者もそのはずですわ。でも……森蘭丸は、父上が迎えに行くまで危機を察知するどころか、記憶を目覚めさせる気配もない。このままでは、確実に足手まといとなるだけです」 「俺が、足手まとい……?」 「ええ、その通り。このままいけば、あの本能寺の変と同じ悲劇が繰り返されるだけ。お前はまた、愛すべき父上の足を引っ張り、父上の命を奪うことでしょう。わたくし、それだけは絶対に耐えられませんのよ」  つらつらと主張を述べたしのぶは、背中からもう一度矢を引き抜いた。そして矢をつがえると、まっすぐこちらに向けてくる。 「ですので……その前に、わたくしが引導を渡して差し上げます。鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス。……鳴かぬ鳥に、用などございませんでしてよ!」 「ちょ、まっ……」
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