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問答無用だった。彼女が放った矢が、まっすぐ蘭磨の胸元目掛けて飛んでくる。嘘だろ、と思った次の瞬間、信花が一歩前に飛び出していた。そして自分の手元に顕現した刀で、矢を弾いてみせたのである。
「話くらい聴かんか、馬鹿息子!」
あれは、と蘭磨は目を見開いた。ぎらり、と波打つような刃紋の打ち刀。柄の部分は信花が握っているせいではっきりと見えないが、織田信長の愛刀である打ち刀といえば限られている。最近は、刀剣マニアが増えたこともあり、ニュースで取り上げられたのでちょっとだけ知っていたのだ。
長谷部国重作の打刀――へし切長谷部。
いや、しかしへし切長谷部といえば、その。
「まてまてまてまて。それ、ひょっとしてへし切長谷部っていうんじゃないだろうな、信花!」
「ん?そうじゃが?」
「こ、国宝だって国宝!確か博多の美術館とか、そのへんに保管されてるやつ!まさか盗んできたとか言うんじゃないだろうな!?」
命を狙われている状況で、そんなツッコミをしている場合ではないのは知っている。だが、小学生とはいえ国宝を盗んだなんてことになったらとんでもない話だ。大騒ぎどころではない。
すると、蘭磨が何を気にしているのか気づいたのか、安心せえ、と信花は苦笑した。
「これは本体ではない。……儂ら真の侍にはな、アヤカシが力を貸してくれることがままあるのだ」
「あ、あやかし?」
「ふふふ、歴史書には一切記されていない事実よ。多くの戦は、アヤカシや神の力を借りた人間の手で行われた、などということはな。特にこの日本という国は、八百万の神が宿る国でもある。人間達の戦に興味を持ち、あるいは信念を同じくした神々が我らに力を貸してくださることは珍しくないのだ」
このへし切長谷部もその一つよ、と信花。
「国宝となった今でも、刀として振るわれたい、戦いたいという心は強い。特に、この刀にとっても儂は特別な主であったようでな。儂の呼びかけに答えて、付喪神が力を貸してくれたのじゃ。儂が念じれば、いつでも顕現して手助けしてくれるというわけよ」
「んな、ばかな……」
「蘭磨。そなたも森蘭丸として覚醒すれば、なにがしかが手を貸してくれるはずよ。おぬしは儂が認めた、誠の侍の一人であるからなあ……」
頭がぐるぐるする。情報が多すぎて、まったく追いつかない。
とりあえず、一つだけどうにか思い至ったことは。
「その、えっと……あっちにいるしのぶさん?信忠氏?にも何かにあやかしが力を貸してるってこと、なのか?」
「間違いない」
矢が消えたのが言い証拠よ、と信花。
「あれは物理的な矢ではないな。なんらかのアヤカシが変化したものよ。気を付けるといい。力を貸す者は、付喪神に限ったものではないからのう……」
マジか、マジなのか。
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