<4・信忠。>

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 信じられないが、これはどこまでも現実らしい。自分達が話すのを丁寧に待っていてくれたしのぶは、そろそろお話はいいですか?とあくびをしている。 「状況を理解されてないってのも困りますわね。ほんと、これだから覚醒してないノロマは面倒なんですの。……父上、どいてくださいませんこと?邪魔をされないなら、父上には一切傷なんてつけませんから」 「そういうわけにはいかぬ。儂が退いたら、そなたは蘭磨を殺すのであろう?」 「ああ、その者の現在の名は蘭磨なのですね。殺すというか、ちょっと試させて貰うだけです。父の傍に置くのに、相応しい人物であるかどうかをね」 「つまりそなたの眼鏡に叶わねば殺すということであろう!?そのようなこと、断じて許すことはできん!」  あの、子供達と笑ってドッジボールを楽しんでいた少女と同一人物とは思えない。信花は、明らかに激怒している。歯をむき出して、威嚇するようにしのぶを睨みつけているのだ。  それを見て、ようやくじわじわと実感が這い上がってくる。あの女子中学生は本気の本気で、自分を殺そうとしているということを。 「でしたら、実力行使、しかありませんわね」  はああ、と深くため息をつくしのぶ。 「父上にも、死なない程度に静かになっていただきますわ。……さあいらっしゃい、わたくしの友……コノハテングよ!」 「!」  彼女がその名を呼んだ瞬間、ぶわり、と一気に周囲の気温が上がったのを感じた。凄まじい熱が、彼女と彼女が持つ弓矢から放たれているのがわかる。  まるで、全てを焼き尽くす、紅蓮の炎のような。 「死にたくないなら全力で……己と父上を守ってごらんなさい、蘭磨!」  彼女が矢をつがえ、放った瞬間。矢が、本来ならあり得ない軌道を描いて襲ってきたのだ。天高く飛び立ち。一直線に真下へ落ちてくるのである。 ――ま、まずい、逃げろ……!  必死で逃げだす蘭磨。途中から、違和感を覚え始めていた。  どうしてさっきから周囲に、しのぶと信花以外の人間がいないのだろう、と。
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