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<5・矜持。>
「だ、誰か!変なやつが襲ってくるんですけど!」
自力でなんとかしようと思わない方がいい。なんだかんだいって、自分もただの小学生なのだから。落下してくる矢をぎりぎりで避けるも、次も回避できる保証はない。
しかし、いくら蘭磨が声を張り上げても、あたりの空気はしん、と静まり返っている。さっきまで土手のあたりでボールを蹴っていた少年達も、井戸端会議をしていた女性たちも、犬の散歩をしていた老人も見当たらない。
離れているところに白い車は停まっているが、その車の中にも人は乗っていなかった。よく見ると駐車位置が妙だ。まるで、走っている途中に人だけ急に消えて静止でもしてしまったかのような。
「助けを求めても無駄ですわよ。最初の攻撃と同時に、貴方と父上を狭間の空間に引っ張り込ませていただきましたから」
離れたところから、笑いを含んだしのぶの声がする。
「本当に、父上から何も聞いていないんですのね。……これは侍の矜持。無関係の者を巻き込んで、勝負の邪魔になっては事ですから。我々は覚醒すると同時に、世界と世界の狭間の空間へ出入りする力を与えられるのですわ」
「与えられるのです、って……誰にだよ!?」
「さあ、誰でしょうね。恐らくは、わたくし達に宝玉を巡って争って欲しい何者か、なのでしょう。上位次元の存在、神か、悪魔か。……いえ、今はそんなことはどうでも良いのです。重要なのは、このままいけば貴方と父上は、多くの転生してきた武将たちに命を狙われる、ということ。そしてわたくしが……貴方を、父上のために邪魔な存在だと思っていること、その一点なのです」
展開が急すぎて、話についていけない。再び彼女が矢をつがえるのを見てぞっとした。
弓矢の射程距離は長い。
そして、その狭間の世界とやらの話が本当ならば、自分はここで逃げおおせても元の世界には戻れないということではないか。
そう、彼女に解かせるか、倒す化しない限りは。しかし、そんなの。
「逃げよ、蘭磨!」
日本刀を構えて、信花が言った。
「そなたは今丸腰、特別な力も何もない。覚醒しておらぬ上、情報さえも不十分な状態。しのぶと戦っても、万に一つの勝ち目もない!」
「で、でも!」
「安心せい、こやつは儂がなんとか説得してみせる。矢の射程範囲だって限界がある、とにかくこうやつの矢が届かぬところまで逃げるのだ!」
言いながら、信花はしのぶに向かって切りかかっていった。矢を放とうとしたしのぶが一点、弓柄で刃を受け止める。
キイイイイイイン!と金属と金属がぶつかるような音がした。へし切長谷部の一撃を喰らって、弓が折れていない。それどころか、信花の力と完全に拮抗しているではないか。
――あの弓、木製じゃないのか?
同じことを疑問に思ったのだろう。信花が声を出す。
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