<5・矜持。>

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 さっき見かけた白い車に飛びついた。軽自動車だ。もし子の狭間の空間とやらが、現実の世界の“特定の人間以外”を鏡のようにコピーするものであるなら。この車は多分さっきまで普通に車道を走っていたのに、人がいなくなって不自然に停止した状態であるはずだ。  つまり、走行できる状態で止まっている、ということである。 ――なら、鍵は刺さったままのはず。そして……走行中、運転席にロックかけてない奴は多い!  案の定だった。父や伯父の車に乗せて貰うことが多かったのでよく覚えている。ドアはあっさり開いた。蘭磨はそのまま、滑り込むようにして運転席に乗り、シートベルトを締める。  正直、自分の背ではかなり視界が悪い。本来ならば小学生が無免許運転なんて論外なのもわかっている。でも今は――周りに迷惑をかけない状態で、かつ自分と信花の命がかかっているのだ、背に腹は代えられない。 ――運転の仕方は、シミュレーターたくさん遊んだから、大体知ってる。  ブレーキを踏みつつキーを回し、サイドブレーキを解除、ご丁寧にパーキングになっていたギアをドライブへ。 「う、嘘でしょう!?」  しのぶがぎょっとしたように声を上げた。遠隔攻撃ができるからこそ信花から離れていたことがアダとなったのだろう。 「い、けえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」  アクセルを踏み、信花に掠る程度の位置へハンドルを切ってつっこんだ。さすがに彼女を撥ねるつもりはない。が、僅かでも掠めればダメージにはなるし、避けたところで隙ができるのは明白なのだ。 「うわ、うわうわうわっ!」  そのまま蘭磨は勢い余って、車ごとそのまま土手を滑り落ちていってしまう。  一方慌てて後方に飛びのいたしのぶ。その隙を、信花は見逃さなかったようだ。 「食らうが良いわ、馬鹿息子め!」  信花はへし切長谷部を振り上げると、一気に振り下ろしたのだった。 「“残照連撃”!」 「き、きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」  いくつもの光の刃が、しのぶの方へ飛んでいく。彼女は悲鳴を上げて、派手に吹っ飛ぶことになったのだった。
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