<1・夢魔。>

2/4
前へ
/115ページ
次へ
 *** 「ちょっと、起きろってば、蘭磨(らんま)!らーんーまっ!」 「!」  肩を揺さぶられ、はっとして自分――森蘭磨(もりらんま)は顔を上げた。見れば前の席に座る友人の蓮沼轍(はすぬまてつ)がしょっぱい顔をしてこちらを見ている。蘭磨と違っていかにもスポーツマン、のむきむき体型の少年だ。 「えっと……おはよ?」  蘭磨はあくびをしながら周囲を見回す。どうやら自分は、いつもの教室で、机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。ついさっきまで、どっかで見たことのあるような変な夢を見ていた気がする。なんだか、織田信長が出てきたような、出てこなかったような。 「おはよじゃねえわ、ボケ」 「いったい」  ぺし、と轍は蘭磨の額を下敷きで叩いた。 「もうすぐ先生来るだろ。朝の会も始まる前から居眠りとか、余裕だなーオマエは。いくら中学受験しないからってー。いくら成績いいからってー」 「眠かっただけだってば、そんなつっかからないでもらえますう?俺、誰かさんにスポーツテストで勝てた覚えないし」 「負けてたまるか、お前に勝てるものなんざスポーツテストくらいしかないっつーのこっちは!」  んべ、と舌を出す友人はどこまで本音なのかわからない。僕はあくびしつつ、凝り固まった腕を伸ばしたのだった。  自分は一体、いつからここで寝ていたのだろう。  いつもの通り登校して、六年二組の教室に入って、ランドセルをロッカーに投げ込んだ、ところまでは覚えている。そのあと朝の会の前にひとねむりでも、と思ったのだろうか。イマイチ記憶がなかった。  それよりも。 ――本能寺、ねえ。  あの夢が、まったく意味不明だ。夢の中で自分は、あの森蘭丸になっていた。織田信長に仕えていた小姓。不動行光を持っていたみたいだし、多分間違いはないだろう。本能寺の変が起きて、寺が炎に包まれて、自分は必死で主たる織田信長を探しているとか――そんなかんじの夢、だった気がする。  詳細は覚えてない。  大体、本能寺が炎に包まれてから夢がスタートしている時点で、その前後に何が起きたのかとかも全然わからないのだ。 ――社会の授業で一応やったけど。1582年の6月21日……本能寺の変。  歴史が苦手な人間も覚えてるくらい有名な話。  明智光秀が謀反を起こし、かの織田信長を討ち取ったという事件だ。  問題は、明智光秀がなんで謀反を起こしたのか、未だにわかっていないことが多いということ。一説によれば織田信長に冷遇された恨みでブチギレて反乱したということになっているが、それも定かではない。  また、織田信長も。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加