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<6・現実。>
「わわわ、ととととっ……!」
やっぱり、車の運転はちゃんとした訓練をするべき。いくらゴーカートとシミュレーターで遊んでいたって、実際に運転するのはまったく操作も雰囲気も異なるのだ。
勢い余って、土手のぬかるんだ場所まで突っ込んでしまった。どうにかギリギリの場所で停車して、ギアをパーキングに入れ直す。念のためサイドブレーキもかけて鍵も抜くのを忘れない。自分がこの車の持ち主なら、このまま鍵を持って脱出したところだろうが。
「ふ、二人とも、大丈夫か!?」
つい、しのぶのことも心配しているような言い方をしてしまった。あいつは自分を殺しに来たのに、とは思うが、彼女も女子中学生のお姉さんに過ぎない。明らかに事情もあるようだし、いきなり車で突っ込まれてびっくりしたはずなのだから。
「ふむ」
信花がすくっと立って、あちこち擦り傷だらけの顔でピースサインをしてきた。勝ったぞ、ということらしい。
「問題ない。しのぶも撥ねられてはおらぬし……というか、侍は覚醒するとかなり体が頑丈になるのでな。軽自動車をぶつけられたくらいで死ぬことはないだろう!」
「そ、そうかなあ」
「とうとも。それより、おぬしが土壇場で車を持ち出してきたことの方に驚いたぞ。確かに、自動車というのはいざという時使えば武器になるのは間違いないな。今は大して速度も出ていなかったが、それこそ時速40キロくらいで突っ込まれたらかなりのダメージになるだろう。それに、車の中にいれば多少の攻撃を浴びても怪我をせずに済むであろうしな。ようやった。……普段から無免許運転はしておらぬよな?」
「してないしてないしてませんって!」
ただ、そう言われるとちょっと訓練したくなるのは事実。――本物の車は駄目でも、ペーパードライバー研修で使うような本格的なシミュレーターなら使わせて貰えないだろうか。今後も狭間の世界に投げ込まれて戦うかもしれないなら、操作方法をしっかり叩きこんでおいてもいいような気がする。
――ていうか、俺。
ちらり、と道に仰向けで倒れているしのぶを見て思う蘭磨。
――なんかもう当たり前に、これがこれからも何度も繰り返されるんだろうなって……認識しちゃってるなあ。
最初は、なんの厨二病カーニバルだ、と思ったものである。織田信長の転生も、森蘭丸の転生も、織田信忠の転生もまったく信じてはいなかった。よくわからないゲームの世界にハマった者達が、面白がってそれっぽい役割を演じているだけだと。
でも、違った。
『力を示してごらんなさい……コノハテング!』
『食らうが良いわ、馬鹿息子め!』
ラノベや漫画でしか見たこともなかったような世界が、そこにはある。
あの不思議な力。魔法、刀、弓、翼。ああいったものを科学的に説明できるだけの知識を、技術を、蘭磨は持っていない。
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