<6・現実。>

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 ありえないと思っていたことは、確かに目の前にあるのだ。  認めなければいけない。――自分達はもう、今まで通りの平凡な小学生生活には戻れない、ということを。 「……ふふふ、あはははははっ」  信花の後ろに庇われつつも、そっとしのぶの方へ近づいていく。しのぶはといえば、あちこち怪我をした状態で地面にひっくり返っていた。しかも、何やら笑っている。いつの間にかその手に持っていた弓矢も黒いオーラも消えているのでもう戦意はないということだろうか。 「ああもう……ほんと、これは予想外。本当に予想外ね。ああもう、なんて日なのかしら!」 「しのぶさん、だっけ?えっと……」 「改めて名乗るわ。小川しのぶよ。前世は織田信忠と申します。どうぞ、よろしく」 「はあ……」  彼女はふらつきながらも立ち上がった。やっぱりさっきの攻撃を喰らったのがつらかったのか、すぐにしゃがみこんでいsまったが。 「本当に、嫉妬しますね。……これ幸いに、父上から森蘭丸を引き離してやろうと思ってましたのに!」 「え、嫉妬?」 「そうです、嫉妬ですの」  はあああ、としのぶは派手にため息をついた。 「森蘭丸が、父上の足手まといになるなら引き離すべき、そう思ったのは事実です。でも、本当に理由はただの嫉妬ですわ、嫉妬。だって、晩年の父の寵愛を最も受けていたのはどの女性でもなく蘭丸、あなただったんですもの。お義母様がいつも愚痴ってたのを、よーく覚えていますわ」  言いつつ、彼女はその場にどっかりとあぐらをかいて座ってしまう。開き直りました、とでも言うような所作だ。お嬢様然とした女性がそういう座り方をするのが、なんとも不思議で、どこか男らしささえある。  信忠の母が誰なのかについては、歴史書でも不明となっていたはずだ。義母、というのは正室の濃姫のことだろうか。 「父上が本能寺からギリギリ逃げ延びたと聞いた時、わたくしは……真っ先に、父を助けにいこうと手勢を連れて動いたのです。しかし、わたくしが駆けつけた時には既に、父は何者かに討ち取られた後でした。暗殺者の姿を見ることも捕まえることもできませんでしたし、骸が放置されていたことから名のある武将の手にかかったわけではないと思っていますけど」  その時、父は宝玉を持っていなかったのです、としのぶ。 「だから結局、星の宝玉は行方不明のまま。父上を殺した者が持ち去ったのか、そもそも本能寺から持ち出されなかったのか。答えを知っているのは父上と、父上を逃がした蘭丸、明智光秀くらいなものでしょう。……わたくしは自分が織田信忠だと理解して以来、ずっと父上と蘭丸を探していたのですわ」 「宝玉の行方を知るために?」 「ええ。同時に……父上が、どのような選択をするのかを知るために」  それから、と彼女は続ける。
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