<6・現実。>

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「そうよ。星の宝玉によって起こされる血みどろの争いを、儂らは山ほど見てきた。宝玉の存在が世間に明るみに出れば、下々の民さえ争い始めるようになる。ゆえに、多くの武将たちがその存在を隠し、多くの記録に残さず、あるいは抹消してきたのだ」 「でも、凄い力を持っているんだろう?どんな力なのかは、よくわからないけど。それを使えば、叶えられる願いもたくさんあるんじゃないのか?」  暗に、欲しくはないのか、と尋ねる蘭磨。確かに自分も、とてつもない力を貰って何がしたい?なんて言われたらとっさに答えられないけれど。 「あるかもしれぬ。でも儂はそれ以上に……自分が自分でなくなるほど、欲に溺れてしまう方が恐ろしいのだ」  信花はゆっくりと首を横に振った。 「人の欲は際限がない。儂自身とて、それは例外ではないのだ。一つ何かを叶えて貰えれば、また一つ、さらに一つと増えていき、どんどんスケールが大きくなっていくことは目に見えておる。欲に溺れて、本当に大切にするべき情や、ささやかな日常の喜びを失う人間にはなりとうないし……別の誰かにもなってほしくはない。宝玉が、どのような願いも叶えられるとされているからこそ」  これはそなたが言ったことだがな、と信花。 「そなたは、蘭丸は儂に言ってくれたのだ。世界の破滅させ、好き勝手に作りかえることができるような力がもしあっても、自分はそんなものは欲しくないと。そんなものより、今大切な人といられて、笑い合える時間が一秒でも長く続けばいい。それを、己は何より望むのだと」 「……俺が」 「そうだ。おぬしの言葉で、儂は決意したのだ」  胸の奥がきゅっとなった。きっとそれはとても大切で、大事な記憶だったのだろう。  何故、自分は思い出せないのか。  しのぶ=信忠に強襲されたことで思い出せたらそれが一番簡単だったというのに。  次はもう、都合よく近くに車があるなんてこともないかもしれないのに。 「その言葉で、安心いたしましたわ」  しのぶがほっと息を吐いた。 「わたくしも同じです。星の宝玉は、何はなんでも破壊せねばなりません。そのためには、仲間が必要です。……父上、今一度この信忠に、共に戦わせていただけませんか」 「……まったく」  最初から全部わかっていたであろう“父”は、肩をすくめてしのぶに言ったのだった。 「仕方ない息子よ。ついてまいれ、この令和の世でも」 「御意に……!」  信花が差し出した手を、しっかり握るしのぶ。  それはまさに、頼もしい味方ができた瞬間であったのだった。
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