<7・宝玉。>

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<7・宝玉。>

 流石にボロボロの状態で家に帰るわけにもいかない。むしろこのまま帰ると、唯一無傷の蘭磨があらぬ疑いをかけられそうである。  覚醒者は傷が治るのが早いとはいえ、ばい菌が入ってはことなので最低限の応急処置はいるとのこと。というわけで、現在近くにあるというしのぶの家に向かっているところである。  しのぶが指を一度鳴らすと、世界から様々な音が戻ってきていた。道を歩く人もいるし、車も走っているようになる。同時に、蘭磨が暴走させてあわや川にツッコミそうになった白い軽自動車もなくなっていた。多分、本来の世界ではとっくにどこかへ走り去っている車だったのだろう。 「それ、どうやるんだ?」  河川敷の道を歩きながら蘭磨は尋ねる。 「というか、原理が微妙にわからない、というか」 「……思っていたんですけど父上。蘭磨くんを守りたいというわりに、伝えている情報が少なすぎるのではありませんか?」 「むう……」  しのぶが非難の声を上げると、信花はぷう、と頬を膨らませて言った。  そういう顔をしていると、普通の女子小学生にしか見えない。 「仕方ないではないか。本当は今日、儂の家に来てもらってそれで説明する予定だったのじゃ。話しながら歩いていたら、そなたが襲撃してきた。タイミング悪すぎであろう?そもそも、儂は今日転校してきたばかりだというのに」 「善は急げと言うではありませんか、父上。敵は待ってくれませんわ。こうしている間にも、わたくしたちを狙って目を光らせているかもしれませんのに」 「それもそうかもしれんが……」 「あーあーあー、そこは今いいから、説明、ね?」  このままだと延々と“親子喧嘩”が続きそうである。蘭磨はどうにか間に入り、ストップをかけたのだった。  とにかく、情報を整理したいし、わからないことは質問したい。どうやら自分達は思っていたより危機的状況にあるらしい、というのをうっすらぼんやり理解した程度なのだから。 「そうですね、簡単にまとめますけど」  階段をおりつつ、しのぶが言う。 「この日本には、歴史書に記されていない裏の歴史が多く存在しますの。その最たるところが、星の宝玉に関わるもの。……この存在を隠すためと言う名目で、実際の歴史書と異なる性格に描写された偉人、いたはずなのにいなかったことにされた娘に息子、逆に架空の妾が生やされたりなんたり……とにかく、事実とは異なる歴史書が数多く作られたのです。そこにいる、我が父上もその一人ですわ」  ちらり、と彼女は信花を振り返った。 「冷酷無慈悲のイメージが強いのでしょうが……実際は、ちょっと人に厳しいだけの人です。わたくしたち子供や恋人、妻、可愛がっている部下などにはもう馬鹿みたいに甘い人でしたわ。甘すぎて時々心配になったくらいです」 「そ、そのようなことないわ」 「いいえ、あります。……大事な会議に遅刻した部下を病欠扱いにしてあげたのはどなただったかしら?実際はただの朝寝坊だったのに」 「お、おう……」
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