<8・金持。>

1/4

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ

<8・金持。>

「……ところで」  蘭磨は頭痛を覚えながら言った。 「小川しのぶさんってもしかして、ものすごいお嬢様?なーんか雰囲気とか喋り方から察してはいた、けど」 「そんな大したものではございませんわ」  立派な洋館の前で、しのぶは肩を竦めた。 「まあ旧華族の家で、元財閥ではございますけど。あとわたくしのお祖父様が一応、小川産業銀行の頭取でございますが」 「……それで全部謎は解けたよ」  しかもここで、隣で門を触っている信花がとんだ爆弾を投下してくるのである。 「おお、立派な屋敷ではないか!うちの本家といい勝負だのう!」 「チョットマテ。お前もなに?どっかのお金持ちの家の子なの、ねえ?」 「大したことではないわ。祖父と父がどちらもちょっと大きな大学病院のお偉方だというだけで」 「ゴリゴリの金持ちだってことはよくわかった」  これはあれか、自分一人だけ一般人か。急に肩身が狭い気持ちになる蘭磨である。  目の前には、ヨーロッパの森の中にでもありそうな、立派な青い屋根の洋館が建っていた。実はこの屋敷、ちょっと有名ではあったのである。ドイツとかそのへんからまるまる移設してきた立派な洋館。門から玄関までの間には、薔薇の咲く庭園やら噴水広場やらがあり、時々リムジンが出入りしているのも見える始末。  表札まで見たことがなかった。なんといっても、入口に警備員が立っていることが少なくないからだ。興味本位で近づいた人間は腰の拳銃でぱーんとやられるんだぞ、と昔言っていたのは、当時同じクラスだった鈴木クンだっただろうか。――多分あれは、警備員と警察官の見分けがつかなかったからだと思っている。それと、警察官は何も常に拳銃を携帯しているわけではないし、なんなら簡単に発砲していいはずもないのだが。 「お帰りなさいませ、お嬢様」  今も、背の高い初老の警備員が二人立っていた。そのうちの一人が恭しく礼をして、玄関の門を開けてくれる。きいいいい、と音を立てて、さくらの花を象った門が開かれていく。 「第三応接室の準備ができていると、執事から仰せつかっております」 「ありがとう。そちらを使わせていただきますわ」  警備員も多分、そのへんで雇われたバイトとかではないのだろう。お辞儀といい門を開ける所作といい、完全に洗練されすぎている。年齢的にも、長年勤めたベテランといった風だった。  鉄扉から玄関までは、白い石畳が続いている。両脇は綺麗にかりこまれた芝生となっており、さらに左手には水が出る噴水とベンチまであった。その奥に見えるのはブランコだろうか、ちょっとした公園である。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加