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本能寺の変の際に討たれたとか自害したとか言われているが、死体が出なかったので実は生存したという説もあるというのだ。例えばあの森蘭丸が抜け道を知っていて、そこから織田信長だけ逃がしたとかなんとか。
――そういうの、歴史好きな奴に語らせたら長いんだろうなあ。知らんけど。
蘭磨はもう一度あくびをした。
自分の名前は、かの森蘭丸と一文字違いだ。なんでこんな名前にしたのか母に尋ねたら、“びびびびっとインスピレーション沸いたから!蘭丸好きだし!”というあまりにもあんまりな答えが返ってきて卒倒した記憶がある。おかげ様で幼い頃から微妙に虐められたものだ。生憎、自分は織田信長に愛された賢い美少年(という話もある)と違って大人しい気質ではない。ふざけた事を言うやつはかたっぱしからボコボコにして、先生を困らせるタイプだったけれど。
「そういえば、お前聞いてるっけ?」
先生が来るか来ないか、とちらちらドアを気にする轍。
「うちのクラス、転校生来るらしいんだけども」
「へ?今六月だぞ。なんでこんな中途半端な時期に?」
「知らんて。来るらしいって聞いただけだもん、俺は」
にやり、と轍はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「聴くところによれば女子らしい!美少女だといいな、美少女!でもってクラスのゴリラ女どもと違って、お淑やかな大和撫子タイプを求む!ゴリラはいやだゴリラはいやだゴリラはいやだゴリラはふげぶっ!」
最後のは、彼の後頭部に何かが激突した音だった。見れば斜め前の席の女子の一人が、にっこり笑っている。どうやら彼女が轍の頭に向かって思い切り筆箱をぶんなげたらしい。
「誰がゴリラだって?喧嘩なら高値で買い取るけど?」
「すみませんごめんなさい許してください本当にごめんなさい私がわるうございました本当に許してください殺さないでくださいマジでごめんなさいいやほんとごめんなさい土下座します申し訳ありませんでしたごめんなさい」
「よ、よわ……」
ごめんなさいbotと化した轍を見て、ドン引きする蘭磨。そんなに女子が怖いなら余計なことなんぞ言わなければいいのに。
実際、うちのクラスは男子より女子の方が圧倒的に強い。小学校六年生くらいだとまだ、女子の方が体格が良いケースも多いとはいえ、うちのクラスの女子の強さは異常なのだ。簡単に言えば、綱引きで男子十人対女子五人で戦わせたら、女子の圧勝だったと言っておく。――どれだけだろう。あっちが強いのか、男子が情けないくらい弱いだけなのか。
――女子か。
なんとなく蘭磨は思った。
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