<8・金持。>

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 ***  こげ茶色のふかふかソファー。ガラス張りのテーブルに、白とピンクの薔薇の花を飾った白い花瓶。  極めつけは壁にかかったどこかの山の風景画と、何に使うのかもわからないアンティークの鎧ときた。  まさに、金持ちのお屋敷。そんな雰囲気をごりごりにつめた応接室は、正直蘭磨としてはまったく馴染みがなく、落ち着かないものだった。 ――しかも、第三応接室、とかなんとか言ってなかったっけ、あの警備員。  彼の言葉を思い出し、頭痛を覚える。 ――ってことは、このひっろーい派手な部屋があと二つはあるわけだ。金持ちって、マジで……。  わからない。本当に、お金持ちの道楽は理解できない。いやけして、馬鹿にするつもりではないのだけれど。 「これで大丈夫かと」 「うぬ、感謝するぞ!」  蘭磨が部屋の中できょろきょろしているうちに、信花としのぶはメイドに手当てを受けていた。際どい場所に傷があったなら部屋を変えなければならなかっただろうが、幸い彼女達の怪我は殆どが手足に集中していて、着替える必要がなかったのである。 「すぐにお茶菓子を用意しますので」 「ええ、お願いしますわ、片野(かたの)さん」  しのぶに声をかけて、片野と呼ばれたメイドが部屋を出ていく。豪奢で居心地の悪い応接室には、しのぶと信花、そして蘭磨だけが取り残されることになったのだった。  周囲には少しだけ、消毒薬と包帯の匂いが残っている。しのぶの傷は、既に治り始めているのかもしれなかった。結構ド派手に吹き飛ばされているように見えたのに、最初はふらついていた彼女がいつのまにかしっかりした足取りで歩いていたからだ。  それは信花の方も同じ。必殺技を喰らった直後は確かに膝をついていたというのに。 ――やっぱ、覚醒すると……いろいろ変わる、んだろうか。  人でありながら、人とは違う何かになるのだろうか。  自分の身は自分で守れるようになりたいし、今度は車の力なんか借りなくても信花を助けられるようになりたい、とは思うけれど。  そう考えると、ちょっと怖いような気もしてくるのだ。  力を持つことはつまり、それだけ簡単に誰かを傷つけることもできるようになるということなのだから。 「確認なんですけど」  やがて蘭磨と信花の正面に座ったしのぶが、話を切り出してきた。 「蘭磨くんはまだ森蘭丸の記憶が戻ってないし、父上は本能寺の変前後の記憶が曖昧、ってことでいいんですわよね?」 「ああ」 「そうなるのう」 「とすると、本能寺の変の契機となった“組織”のことは、覚えていらっしゃらないということでいいでしょうか」
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