<9・特訓。>

2/4

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 *** 「はい、ぴっぴ!ぴっぴ!きりきり走ってください、きりきり!」 「ちょ、待って、待って……!」  あの、どうしてこんなことになってるんでしょうか。  蘭磨は疑問で仕方なかった。現在、自分がいるのはしのぶの家の家の地下室である。正確には、地下に設置された訓練場のような場所である。そこをひたすら走らされている状況だった。  森蘭丸の記憶を思い出し、力を覚醒させるにはどうすればいいのか。そう尋ねた蘭磨ににっこり笑ってしのぶが言ったのは、“訓練すればいい”の一言だった。 『どのようなきっかけで前世の記憶が蘇るのか、実のところはっきりとは分かっていないのです。ですが、体を追い込み、命の危険に晒されることで本能が目覚める……可能性は非常に高いと踏んでいますの。実際、わたくしが織田信忠だと気づいたのは、うっかり車に撥ねられそうになった時でしたから』  それを聴いた信花が、“そういえば儂も、ビルから落下した時であったのう!”などととんでもないことを言っていた。お前ら何してんの!?とはここだけの話。いや、車に轢かれそうになるケースはままあるかもしれないが、ビルから落ちそうになるような事例なんてそうそうあってたまるかというやつである。  フェンスが壊れていたとか窓掃除をしていたら転落したとか、そういうのなら多少同情の余地はあるが。 『あ、ちなみに儂のこの口調は信長の記憶が目覚める前からじゃぞ!子供の頃から家族まるごと侍マニアじゃからの!』 『……さいでっか』  あの喋り方、信長の記憶の影響じゃないんかーい!とついつっこんでしまった。  とまあ、それは今一番の問題ではなくて。 『そんな命の危険に晒されないと目覚めないとか嫌なんですけど!?俺はまだ普通の人間だし、車に撥ねられたりビルから落ちたら死んじゃうだろ!』  敵に殺されるのも嫌だが、そんなみっともない死に方はもっと嫌である。断固抗議すると、しのぶは“わかってますわ”と口を尖らせた。 『わたくしとしては、そのまま死んでくださって信長様の右腕の座を譲っていただいても一向に構わないというか大歓迎なんですけど』 『おーい』 『それでは父上が悲しみますから。仕方ないので、危機的状況を再現するだけに留めて差し上げようというのです。感謝してほしいですわね』 『なんでいちいち棘があんねん……』
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加