<9・特訓。>

3/4

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
 つっこみどころが満載すぎる。多分、嫉妬してたから八つ当たりで攻撃しましたてへぺろ、は紛れもなく本心だったのだろう。――本当に、あの襲撃で蘭磨が死んでいても問題なかったと思っていそうなのが恐ろしい。 『とりあえず、いつ敵が襲ってきてもいいように、基礎体力と身体能力の向上は必須。今から、わたくしが言うまで、ひたすら訓練場でランニングしていただきますわ!』  どこからともなく白いホイッスルを取り出したしのぶは、びしっと蘭磨を指さして言ったのだった。 『そして走っている間、わたくしが時々コノハテングの力で攻撃させていただきます。どんなに疲れていても全力で避けること!』 『えええええええええええ』 『ええええええええええええじゃないですわよ!言ったでしょう、いつどこで敵が襲ってくるかわからないと!体育の授業で疲れ果てている時に襲ってくることだってあるし、場合によっては狭間の世界に移動してくれるほど親切な敵じゃないこともありえますの。そうなったら、周囲の人間を巻き込まないように人気がないところまで逃げる必要もありますわ。ようは体力は必須。そのついでに覚醒できたらもうけもの!言いたいことはわかりますわよね、ね、ね!?』 『ええええええええええええええええええ』 『不満!?何よ、貴方も強くなりたいんじゃありませんの?』  しのぶはじっと蘭磨を睨みつけて告げた。 『また、この間みたいな体たらくでいいんですの?父上に守られるだけの自分でも、構いませんの?』  それを言われてしまうと、こちらとしても反論できない。  あの時、蘭磨は完全に無力だった。場所が河川敷で、車がたまたま見つかったから援護できたものの。それはあくまで、たまたま近くに使える道具があったからなんとかできた、にすぎないのだ。  本来なら、自分はあの時足手まといにならないように、逃げるか隠れるかをしなければいけなかったのだろう。いくら狭間の空間とはいえ、敵から距離を取ることはできたのだから。  それでもあの場に留まったのは、単なる意地だ。足手まといなのに信花を捨てて逃げられない、なんて――本当はそんなプライド、土壇場ではまったく役に立たないというのに。 ――足手まといは、嫌だ。せめて……自分の身は、自分で守れるようになりたい。  自分は、信花のことなど何もわからない。彼女のことは何一つ知らない。美人な変わり者の女の子、それだけだ、でも。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加