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<10・天然。>
蘭磨は塾に行っていないし(だってちゃんと授業聴いてれば公立小学校の勉強なんか普通にわかるし)、中学受験組でもない。放課後にクラブ活動なんかもしていないので、時間に余裕があるといえばあるのだった。
そのせいか放課後のほとんどを信花と一緒に、しのぶの家で特訓しても問題はなかったわけである。両親は放任主義で共働きであり、蘭磨のやることにいちいち口を出してこないから尚更に。
――段々、わかってきたことがある。
一週間も特訓して貰えれば、ちょっとだけ見えてくることもある。昼休み、友人達とドッジボールに勤しみながら思う。
――攻撃しようとしてる奴は、“気配”が違う。殺気ってのは、そうそう隠せるもんじゃないんだ。
クラスの男子がボールを構えたまま、一瞬こちらを見た。来る、と思った瞬間蘭磨は身を翻す。さっきまで自分が立っていた位置を、オレンジ色のボールが通過していった。
「あ、避けた!」
――ここで油断するなかれ、すぐ後ろの奴も俺を狙ってる!
思い出すべきは、しのぶとの特訓だ。
初日から散弾銃みたいな攻撃を仕掛けてきたしのぶだったが、二日目、三日目になるとどんどんその技の種類も増え、タイミングもバラバラになっていた。走っているだけで疲れるのに、しのぶの攻撃にも気を使わなければいけない。そうやって気を張っていれば自然と、相手が攻撃をしてくるタイミングがわかってくるというものだ。
それを本当に殺気と呼ぶのが正しいのかはわからない。
ただ、来る、と分かった瞬間に攻撃が飛んでくることが増えた。あとは空中を斬る音、肌に触れる空気の感覚で“どのタイプの攻撃”かを見極めて、適切な方向へ回避するだけだ。
「せいっ!」
素早くしゃがみこんだ。ボールが、頭があったあたりを通過していく。そのまま内野にいた轍がボールをキャッチ。こちらのチームのボールとなった。
「おま、さっきの動きすげーなあ」
轍が目をまんまるにして賞賛した。
「後ろ見えてなかったのに、なんでボール来るってわかったんだ?いや、それ以前に最初の、田中の攻撃もわかってて回避したみてえじゃん」
「あーうん……なんとなく?」
「へえ」
彼はボールを抱えたまま、にやにや笑った。
「最近、信花と特訓してるみてえじゃん?そのせいか?」
「あ、あー……まあ」
誰かさんのおかげで、ここ最近は生傷が耐えない蘭磨。そのせいでクラスのみんなに心配されるようになってしまったので、信花がフォローもかねて言ったのだった。つまり。
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