<10・天然。>

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『こやつのことを責めてくれるな!蘭磨はのう、ドッジボールが下手なことをとても悔んでおった。もうすぐドッジボール大会もあるのに、皆の足を引っ張ってはならぬと思ってるらしい。じゃから、儂と一緒に秘密の特訓をしているのだ。特に、ボールを避ける特訓を重点的にしておっての。めきめき上達しているところなのよ!』  これである。  確かに自分はずっとドッジボールが下手だったが、そこまで盛らなくてもいいではないかと思う。が、どうにもクラスメート達は本気にしてしまったらしく、最近は昼休みのたびにドッジボールに誘われるようになってしまったのだった。  まあ元々球技は嫌いではないし、誘われて嫌な気はしないのだけれど。 「確かに信花は運動神経いいもんなー。今日は用事があるとかで、参加してないけどよ。いたら戦力間違いなしというか、もうあいつがいるおかげで今年は優勝したも同然つーかな!」  うんうん、と言いながら肩に手を回してくる轍。彼の顔から悟った。一体何を誤解しているのかを。 「……俺とあいつ、別にそういう関係じゃないからな?」 「えええええええええええええ、俺ら親友だろ?それぐらい正直に言ってくれてもいいじゃねーかよー」 「あのなあ」  確かに自分達は元々前世で主と家臣であったようだし、信花のたちの物言いからして“それ以上の深い仲”であったのも間違いなさそうだが。  だからって、現世の信花と蘭磨がそうだというわけではないのだ。確かに彼女は美人だし、この間守ってくれた時は嬉しいと思ったのも確かだけれど。かっこいいなとか、そういうことも思わなくはなかったけれど。 「ちょっと、そこの男子!」  やがて、外野にいる別の女子からクレームが飛んできた。 「いちゃいちゃしてないでさっさとボール投げなさいよ!イケメン二人のBL美味しい……じゃなかった、ゲームが止まって迷惑なんだから!」 「ちょっと待って、ねえ!?」  なんだろう、今ものすごく、斜め上の勘違いをされたような。蘭磨が思わず轍の体を押しのけると、案外純情な轍がきょとんとした顔で言ってきたのだった。 「びーえる?なんだそれ?」 「……お前は知らなくていいよ、うん」  なお、蘭磨の母は生粋の腐女子である。家のあちこちに、薄くてキラキラした本が隠していることも知ってるし、イケメンがえっちな顔してる本も発見してしまったことがある。今年の夏の祭典に出したいとか言って、休日はパソコンに向かって血眼になっていることも知っている。  世の中、知らなくてもいいこともあるのだ、残念ながら。
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