<10・天然。>

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 ***  四階の一番端のトイレには、滅多に人が来ない。というのもこの学校は空き教室が多くて(元々はもっとたくさん子供がいたのが、生徒数が減少してしまってそのままらしいと蘭磨が言っていた)、四階はあまり使われることがないからだ。  信花は一人、四階の女子トイレにいた。覚醒者は近づけばなんとなくわかるものの、まだ覚醒していない者を発見するのはなかなか難しい上、中には気配を消すのに長けた者もいるからである。  蘭磨=蘭丸を見つけられたのは、幸運としか言いようがなかった。近しいものほど未覚醒でもわかる確率が高くなるらしい。手を尽くしてくれた家族や使用人たちには感謝するしかない。 「……それで」  今。四階の女子トイレの個室にこもり、信花はスマホで電話をかけていた。相手はしのぶだ。 「まだ、他の“転生者”は見つかっていない、と?」 『申し訳ありません、父上』  電話の向こうから、実に残念そうなしのぶの声が聞こえてくる。 『いかんせん、わたくしの能力も父上の能力も、人探しに向いているものではありませんから。特に、あの方の行方は重点的に探しているのですけれど、それらしい情報はまだ』 「ふむ。あの者も、どこかで戦いに巻き込まれている可能性は高い。星の宝玉の行方については何も知らなんだが、儂がそれを手にしたことは知っておったはずじゃからの」 『はい。わたくしのところにも何度か刺客が来ましたが、やはり星の宝玉の行方と情報を求める者が多かったです。あの方も、同じように狙われている可能性は高いかと』 「そうだのう……」  星の宝玉を手に入れて野望を叶えようとしている者でなければ、協力しあうこともできるはず。  特にあの者ならば、多少小言は言われようが、信長である自分の助力になってくれる可能性は高い。  同時に。  かの者に限らず、今は一人でも仲間が必要だ。敵は間違いなく徒党を組んで襲ってくる。一人二人では、その数に対応しきれまい。 『引き続き、調査を続けますわ。……学校にも、刺客が紛れているやもしれません。父上も蘭磨くんも、どうかお気をつけて』 「うむ」  スマホの赤い受話器マークを押した。通話終了。はあ、とため息をつきつつ、便座の上に座り込む信花。  前世で、自分はいくつもの罪を犯した。そのうちの一つが、彼女へ対する罪である。  協力してくれるはず、とは言ったが確実ではなかった。恨まれている可能性も、十分考えられるだろう。何故なら。 「どこにおるのだ……帰蝶」  元々自分達は、愛し合って結婚したわけではなかったのだから。
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