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四階の一番端のトイレには、滅多に人が来ない。というのもこの学校は空き教室が多くて(元々はもっとたくさん子供がいたのが、生徒数が減少してしまってそのままらしいと蘭磨が言っていた)、四階はあまり使われることがないからだ。
信花は一人、四階の女子トイレにいた。覚醒者は近づけばなんとなくわかるものの、まだ覚醒していない者を発見するのはなかなか難しい上、中には気配を消すのに長けた者もいるからである。
蘭磨=蘭丸を見つけられたのは、幸運としか言いようがなかった。近しいものほど未覚醒でもわかる確率が高くなるらしい。手を尽くしてくれた家族や使用人たちには感謝するしかない。
「……それで」
今。四階の女子トイレの個室にこもり、信花はスマホで電話をかけていた。相手はしのぶだ。
「まだ、他の“転生者”は見つかっていない、と?」
『申し訳ありません、父上』
電話の向こうから、実に残念そうなしのぶの声が聞こえてくる。
『いかんせん、わたくしの能力も父上の能力も、人探しに向いているものではありませんから。特に、あの方の行方は重点的に探しているのですけれど、それらしい情報はまだ』
「ふむ。あの者も、どこかで戦いに巻き込まれている可能性は高い。星の宝玉の行方については何も知らなんだが、儂がそれを手にしたことは知っておったはずじゃからの」
『はい。わたくしのところにも何度か刺客が来ましたが、やはり星の宝玉の行方と情報を求める者が多かったです。あの方も、同じように狙われている可能性は高いかと』
「そうだのう……」
星の宝玉を手に入れて野望を叶えようとしている者でなければ、協力しあうこともできるはず。
特にあの者ならば、多少小言は言われようが、信長である自分の助力になってくれる可能性は高い。
同時に。
かの者に限らず、今は一人でも仲間が必要だ。敵は間違いなく徒党を組んで襲ってくる。一人二人では、その数に対応しきれまい。
『引き続き、調査を続けますわ。……学校にも、刺客が紛れているやもしれません。父上も蘭磨くんも、どうかお気をつけて』
「うむ」
スマホの赤い受話器マークを押した。通話終了。はあ、とため息をつきつつ、便座の上に座り込む信花。
前世で、自分はいくつもの罪を犯した。そのうちの一つが、彼女へ対する罪である。
協力してくれるはず、とは言ったが確実ではなかった。恨まれている可能性も、十分考えられるだろう。何故なら。
「どこにおるのだ……帰蝶」
元々自分達は、愛し合って結婚したわけではなかったのだから。
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