<10・天然。>

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 *** 「今日も信花ちゃんと一緒にドッジボールの特訓?」 「え、あ、うん」  放課後。  蘭磨がそう返すと、目の前の女子二人は少し残念そうな顔をした。その奥には、こちらの様子を伺っている数人の男子もいる。 「少しでも早く上手くなりたいんだ。最近は、自分でも手ごたえ感じてるし、そのうちボールもキャッチできるようになりたいし」  とりあえず、ドッジボールの特訓ということで話を合わせておけばいいだろう。蘭磨が笑顔でそう告げると、そっかあ、と彼女たちは頷いた。 「一緒にみんなで駅前のショッピングモールに行こうかーって話になってたんだけどね。特訓ならしょうがないね」 「ごめんな、合わせられなくて」 「いいよいいよ。……それに、最近蘭磨くん、すごくいい顔してる」 「だよね」  少女二人は残念そうながらも、ちょっぴり嬉しそうに笑ってみせた。 「信花ちゃんが来るまでは、なんかみんなと距離があったっていうか、わざと、親しくなりすぎないように、友達増やさないようにしてるのかなーってかんじあったもん。クールっていうかなんていうか?でも、最近は表情もころころ変わるし、轍くんあたりといてもすごく笑ってるし。ドッジボールも、一生懸命やってるなーっていうか?今の方がずっといいと思う」 「そ、そうか?」 「うん、そうだよ」 「付き合いよくなったしねー」  驚いた。自分は、そんな風に皆に思われていたのかと。別にクールぶっていたつもりはない。友達だってゼロじゃない。ただ、確かにわざと皆と距離を取ろうとしていた、といううのはまさにその通りなのでドキっとする。――そんなに話したこともない女子たちにバレていようとは。 ――距離、か。……本当にこれでいいのかな。  そう思う時は、正直ある。  友達を増やしすぎると、また自分はお節介を焼きたくなる。その結果余計なことをして、人を取り返しがつかないほど傷つけることもあるかもしれない。それだけは嫌だと思って、親しくしすぎないようにとは考えていたけど。 ――守れる力を手に入れれば……俺も、変われるんだろうか。あいつと一緒にいれば、それができるんだろうか。  答えはまだ見えない。ただ、とりあえず今は笑っておくことにしようと思ったのだった。 「それなら、良かった。今度また誘ってな」 「うん!」  もうすでに、遅いのかもしれなかった。  自分はなんだかんだいって、このクラスそのものが好きになりかけているのだから。
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