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「今日も信花ちゃんと一緒にドッジボールの特訓?」
「え、あ、うん」
放課後。
蘭磨がそう返すと、目の前の女子二人は少し残念そうな顔をした。その奥には、こちらの様子を伺っている数人の男子もいる。
「少しでも早く上手くなりたいんだ。最近は、自分でも手ごたえ感じてるし、そのうちボールもキャッチできるようになりたいし」
とりあえず、ドッジボールの特訓ということで話を合わせておけばいいだろう。蘭磨が笑顔でそう告げると、そっかあ、と彼女たちは頷いた。
「一緒にみんなで駅前のショッピングモールに行こうかーって話になってたんだけどね。特訓ならしょうがないね」
「ごめんな、合わせられなくて」
「いいよいいよ。……それに、最近蘭磨くん、すごくいい顔してる」
「だよね」
少女二人は残念そうながらも、ちょっぴり嬉しそうに笑ってみせた。
「信花ちゃんが来るまでは、なんかみんなと距離があったっていうか、わざと、親しくなりすぎないように、友達増やさないようにしてるのかなーってかんじあったもん。クールっていうかなんていうか?でも、最近は表情もころころ変わるし、轍くんあたりといてもすごく笑ってるし。ドッジボールも、一生懸命やってるなーっていうか?今の方がずっといいと思う」
「そ、そうか?」
「うん、そうだよ」
「付き合いよくなったしねー」
驚いた。自分は、そんな風に皆に思われていたのかと。別にクールぶっていたつもりはない。友達だってゼロじゃない。ただ、確かにわざと皆と距離を取ろうとしていた、といううのはまさにその通りなのでドキっとする。――そんなに話したこともない女子たちにバレていようとは。
――距離、か。……本当にこれでいいのかな。
そう思う時は、正直ある。
友達を増やしすぎると、また自分はお節介を焼きたくなる。その結果余計なことをして、人を取り返しがつかないほど傷つけることもあるかもしれない。それだけは嫌だと思って、親しくしすぎないようにとは考えていたけど。
――守れる力を手に入れれば……俺も、変われるんだろうか。あいつと一緒にいれば、それができるんだろうか。
答えはまだ見えない。ただ、とりあえず今は笑っておくことにしようと思ったのだった。
「それなら、良かった。今度また誘ってな」
「うん!」
もうすでに、遅いのかもしれなかった。
自分はなんだかんだいって、このクラスそのものが好きになりかけているのだから。
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