<11・駄々。>

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 この、戦闘とカリスマは紛れもない美少女は、頭を使うことはへっぽこが過ぎるし、手先もものすごーい不器用だということである。みんな大好き調理実習で食材を駄目にしまくり、同じ班のメンバーが半泣きになっていたのは記憶に新しい。 ――よく考えればこいつ、どっかの家のお嬢様じゃなかったっけ?親が医者とかなんとか言ってたような。  家事ができないのはまあ仕方ないとして、家庭教師がついてそうな家ではないのか。何でそんなにできないのだろう。  呆れて見ていると、彼女は廊下に大の字に寝転がったままぼそりと呟いた。 「う、う、う。……前の小学校とか、手ぬるいうちの家庭教師相手なら、こっそり隙をついて逃げ出すこともできたというのに。よりによって六年生の教室が三階なのが解せぬ、簡単に逃げられぬではないか」 「謎は全て解けたよ……」  こいつは馬鹿か、馬鹿なのか。頭痛を覚えつつ、蘭磨はゆうゆうと転がっている残念な美少女をまたいでいった。 「とりあえず、先生も本気でお前の学力心配して面談したいだけだろうから、まあ頑張れ。補習確定だと決まったわけではない。ほぼ確定だとは思ってるけど」 「ぬおおおおおおおおおおおお!儂を、儂を置いておくのか、薄情者めええええええええ!恨んで枕元に立つぞおおおおおおおおお!」 「ちゃんとしのぶさんに言っておいてやるよ。誰かさんは勉強できなさすぎて遅刻しますって」 「それ言ったら儂がしのぶに呆れられるではないか!叱られるではないか!雷落ちるではないか!嫌じゃ、秘密にしてたもれ!なんならトイレにこもって出てこなくなったでもいいからあ!!」 「遅刻は確定だろうがいい加減に諦めろ!つかトイレの方が恥ずかしいだろうが普通に!!」  駄目だこいつなんとかしないと。  そう思っていると、何やらいろいろ察したのか、クラスメートの少女達が気を使ってくれた。ずるずるずる、と転がっている拒否犬(人間)を引きずってくれたのである。 「蘭磨くん、彼女はあたし達が責任もって職員室まで送り届けるから大丈夫よー」 「じゃあね森くん、また明日ー」 「お、おう」  なんて慣れた所作だろう。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、待て、待つのじゃ、嫌じゃ、勉強はしとうない、ていうか儂が終わるまで待っててええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」  情けない信花の悲鳴がフェードアウトしていく。多分似たようなこと前にもどっかでやったんだな、と推察。クラスメートたちの慣れっぷりがあまりにも清々しい。 「……帰るか」 「蘭磨も大変なんだな……子守り」 「同い年のはずなんだけどなあ……」  しまいには、クラスの男子に肩ポンされて同情されてしまった。  蘭磨は決意する。  今度同じ場面に遭遇したら他人のふりをしようそうしよう、と。
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