<11・駄々。>

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 ***  何故信花が一緒に帰ると言って聞かなかったのか、理由は一応想像がついている。  彼女なりに、まだ力が使えない蘭磨を心配してくれていたのだろう。万が一襲撃されたら対応できない。自分がいない時では守ってやれない、と思っているのだ。  ただ。 ――本当に、そんな敵が俺たちを狙ってるのかなあ。  この一週間、何も起きなかったのだ。  しのぶの家への行きかえり。確かに信花が一緒だった時が多いが、土日は蘭磨だって一人で外へ出かけている。常に信花かしのぶが一緒だったわけでもない。それなのに、しのぶの襲来以降、おかしなことなど何も発生していないのだ。そりゃあ、緊張感も緩むというものだろう。 ――いつか、本当に何かが起きるとしても。それは今日とか明日とか、そういうわけじゃないんじゃないかな。  そもそも敵というのが本当にいるとして。  その敵だって、同じ人間であるはずだ。それも、令和を生きる人間である。戦国の時代ならば、必要に応じて女子供を殺すこともやむなしだったかもしれない。しかし今の世の中、人を殺せば犯罪だし、隠し通すことだって難しい。理性的な抑制が働く人間がほとんどのはずだ。  しのぶ、信花を見るに、完全に前世の記憶と人格に染まっているわけでもないようだし、令和の人間としてのセーブは必ず利くだろう。ならば、自分のような小学生の子供を襲撃することに、抵抗があるのが当然ではなかろうか。 ――それこそ、星の宝玉を知っていても、できれば戦いたくないって思ってる人もいるんじゃなかろうか。  学校を出て、公園に入る。この公園は木陰が多くて涼しいのだ。少しだけ遠回りだが、日当たりの良い道を通るより格段に気が楽なのだった。  もう梅雨の時期であるはずなのに、今年は雨が少ない。…区予報によると空梅雨になるというわけではなく、短い期間で一気に降る可能性が高いので警戒が必要だという。乾いた地面から上がってくる熱気で肌がべたついた。額に浮いた汗をぬぐいながらゆっくりと歩いていく。時々、ランドセルから水筒を取り出して飲みながら。 ――今日も、夕立あるかもしれないって言ってたっけ。……しのぶさんの家から帰る途中、気を付けた方がよさそう。  一応折りたたみ傘はあるが、ランドセルに入るくらいの小さなものだ。大雨になったら足らないかもしれない。  場合によっては傘を借りる必要もあるだろうか、と。そう思ったところで気づいた。 「……まじで?」  音が、ない。  正確には、葉擦れの音、風の音ならば聞こえてくるのだ。それなのに、子供の声や車が走る音が一切聞こえてこないのである。  砂場を見れば、スコップが砂の城に突き刺さったままになっている。  きっとさっきまで老夫婦でもベンチに座っていたのだろう、ステッキと鞄がベンチに置かれたままになっている。
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