<11・駄々。>

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 からんからんからん、と音を立てて転がったのは、誰かが遊んでいたのであろう小さなプラスチックのバケツ。通り過ぎていく黄色い色を見て、ゆっくりと蘭磨は振り返ったのだった。 「狭間の世界だよな、これ。……侍として覚醒すると、使えるようになる力なんだっけ?」  公園の真ん中。ブランコの前に、一人の少年が立っていた。 「これは、お前の仕業ってわけか?……日本人じゃなさそうな見た目してるけど」  意外だったのは、その人物が美しい金髪をしている、ということ。  キラキラと輝くブロンド、透き通るような白い肌、それから宝石のような青い瞳。白人はそばかすが多いと聞いたこともあるが、少なくとも彼の肌にはシミ一つ見えないように思われた。  ウェーブした少し長めの髪が、風に揺れている。まるで絵の中で賛美歌を歌う、聖歌隊の少年のような美少年だ。 「そうですね、私は日本人じゃありません」  彼は、流暢な日本語で言った。 「でも日本語は、わかります。アメリカで、日本人の友達と一緒に勉強していたので。昔から日本のことが好きだったので、私、一生懸命勉強したんですよ。ちゃんと意味は通じていますよね?」 「まあ。大丈夫だけど」 「そうですか。それなら良かったです」  男子小学生相当と思われる年齢なのに一人称が私で敬語なあたりが、いかにも後で学んだ日本語といった雰囲気ではある。しかし、特に引っかかるところもないし、綺麗な言葉遣いではあった。  ただ。 ――こいつ、何かおかしい。  彼はニコニコ笑っているのに、さっきから妙な威圧感を感じる。眼が笑っていないとでもいうのか。憎悪を隠すために、笑顔の仮面をかぶっているかのような。 「えっと、森蘭丸さんですよね。現在の名前は、森蘭磨さん、でしたっけ」 「!」 「ああ、なんで現在の名前まで知ってるのかって?私、そういうのが得意なんです。私と共に戦ってくれる使役霊、管狐は何かを調べるのがとても上手なので。だから、貴方のことも、貴方が今信長様と一緒であることも知っています。その上で、今日はお願いがあって参りました」 「お願い?」 「ええ」  信長と一緒にいることを知っていた。ということは、蘭磨が今一人でいることを分かった上で近づいてきた可能性が高い。  ならば。 「信長様に愛されるのは、私だけでいい」  少年の唇が、きゅうう、と吊り上がった。 「ですので蘭磨さん、貴方、邪魔です。……消えてくださいませんか?」
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