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――駄目だ。……今のこいつ、まともじゃない。あいつらが来たら、あいつらも攻撃されかねない!
自分のせいで、彼女達が酷い目に遭うのは絶対に嫌だった。
助けて、なんて言いたくない。それは蘭磨が男で、彼女たちが女だからというだけではないのだ。
自分は知っている。助けて、と助けを求めた結果、助けてくれた人間が犠牲になることもあるということを。それは簡単に口にしていい言葉ではないということを。
『蘭磨、ごめん。もう、無理、みたいだ……』
死ぬのは怖い。でも。
自分のせいで誰かが犠牲になるくらいなら、自分が死んだ方が百倍マシだ。自分のために誰かが苦しむのを見せつけられる方が、何百倍だって恐ろしい。これは自己犠牲じゃない、ただのエゴで、弱さだ。わかっている、でも。
――今度こそ、自分の力でなんとかするしかない!
再び紫色の風が飛んでくる。どうやら風の形状はいくつにも変化させられるらしい。まるでカマイタチのような風が幾重にも分かれて飛んでくるのを、ギリギリで躱していく蘭磨。
一週間、死ぬ気で特訓した成果は多少なりに出ているようだ。走りながらランダムに飛んでくる攻撃を避ける、というのは思った以上に難しい。敵の殺気を察知する能力と集中力、走り続ける体力が求められるのだから。そもそも訓練していなかったら、一番最初の攻撃だって避けられなかったかもしれない。
「思ったよりも避けるのが上手ですね」
バキイイ!と大きな音が鳴った。巻き添えを食ったブランコの鎖が切断され、落下する音である。鉄鎖を切り飛ばすほどの風。人間が食らったらどうなるかなんて言うまでもない。
「うーん、少し遮蔽物の多い公園で仕掛けたのは失敗だったでしょうか。多少逃げ隠れできてしまいますからね。……でもいいです。狭間の空間に呼び込んだ以上、他の一般の方々を巻き込まなくて済みますし。まとめて消し飛ばせばいいだけでしょうか。ブランコとか滑り台とかを壊すのは心が痛みますけど」
「……そういう気持ちがあるなら、なんで俺を殺そうとする?お前も知っての通り、俺には森蘭丸としての記憶はないし、今でも半信半疑だってのに」
恐らく、根っからの悪人ではない。
一般人を巻き込みたくない、と思うくらいなのだから。
「それに、帰蝶は元々斎藤道三が織田信長に送った間者だったってことなんだろ。なら……」
「ええ、最初はそのはずでした。でもね、計算外のことってあると思いません?父も私も、気づけば完全に信長様の男気に、理想に、惚れ込んでしまっていたのですから」
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