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ぱちん、と扇子を閉じてうっとりと目を閉じるエリオット。
「私はあの方の本当の妻になろうとした。あの方も私を一番に愛してくださっていると信じてやまなかった。……ああ、お前が現れるまでは。確かに信長様がバイセクシャルであることは知っていたつもりですけれど、それでもまさか、小姓ごときと本気の恋愛までなさろうなんて。ああ、悔しい、悔しい、悔しい。嫉妬でこの身は引き裂かれそうでした!しかも、令和のこの世に、転生してなおあの方の傍にいるなんて!」
その顔に、凄絶な笑みが浮かぶ。否、目だけが笑っていない。笑顔のの仮面の下にあるのは、燃えるような憎悪と嫉妬心だ。
「ああ、あなたを殺せば、信長様は今度こそ私だけのものになる!それができるとあの方が約束してくれた!ならば私は、あなたを排除するまでなのです!」
ちょっとまて、と眉をひそめる蘭磨。
さっきから少し気になる台詞があるような。最初はあの方、というのは信長の事だと思っていたが、どうやら彼が“あの方”と呼んでいる人物は二人いるようだ。信長と、それから。
『ああ、ついついまたお喋りが過ぎてしまいました。これではいけません。あの方に叱られてしまう。信長様を今度こそ私のためにするために、力を貸して下さると言ったのに』
日本語の絶妙な使い方のせいでわかりづらいが。
信長=信花を手に入れるために、帰蝶=エリオットに力を貸すといった“あの方”とやらがいる。それは、もしや。
『その者達を、我々は“影の鳥”と呼んでおりました。そして、今の令和の世でも、影の鳥自体が復活している可能性が高いのです。少なくとも、当時の世を生きていた名のある武将のいずれかが指揮をしていたのは間違いないことでございますから。その何者かもまた令和の世に転生してきているのなら、必ずや再び戦となりましょう』
「お前、まさか、影の鳥の奴に……」
唆されてるんじゃ、と言いかけたその時だった。エリオットが再び扇子を開き、天高く掲げたのである。
紫色の光が集約していく。まずい、と蘭磨は背中に冷たい汗をかいた。明らかに、大技が来る予兆。さっきまでとは比較にならない、大きな攻撃が来る。
「死にゆくあなたには、知らなくてもいいこと」
さあクダギツネ、とエリオットは愛しいあやかしを呼んで続けた。
「これで終わりです。……“紫苑烈火”!」
慌ててベンチの後ろに隠れた蘭磨を、紫色の竜巻が襲ったのだ。
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